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「くそっ、あいつの海軍こんな強かったか…!?」

「足引っ張るんやない、イギリス」

「お前もな!」


ドーバー海峡にて、オランダとイギリスの連合艦隊はフランス海軍に今まさに破れようとしていた。
このまま負けたからといってイギリスやオランダに上陸されるわけではないが、その可能性は現実味を帯びてきていた。


同じ指揮艦船に乗るイギリスとオランダは、次々と沈められる船とその向こうに見えるフランス船を忌々しげに睨んだ。
フランスの高笑いが聞こえてくる。


「イギリスさん、もう持ちこたえられません…!」

「オランダさん、こちらも、もう…!」


それぞれの部下もやって来て、戦いの負けが明確になる。これでは致し方ない。
2人は撤退するしかなかった。


「よーし!このままアルレシアに侵攻するぞー!」


フランスは、今展開されているアイルランドのイギリスへの反乱に合わせて、アルレシアにも侵攻してイギリスとオランダを大陸から遠ざけようとしていた。
名目は再び、アルレシア王位の要求である。これより、第二次アルレシア継承戦争が始まる。


「あいつまたアルレシアに…!」

「…懲りんやつやざ…」


敗走するイギリスとオランダを横目に北海へ向かうフランス艦隊。
2人の共通の想い人であり同君連合のアルレシアへと悠然とフランスは迫っていた。


と、そこに、フランスの前方から船影が近付いてきた。
まずフランス軍がざわつき、ついで2人が乗る船の物見台からも声が落ちてくる。


「あれは…アルレシア軍です!!」

「アルレ!?なんでこないな早くに…」


オランダが驚くのも無理はない。中立であるアルレシアが、フランスの侵攻に事前に対処するなど 不可能だ。


どんどん船は近付いてくる。その数、約30。
たなびく国旗はアルレシア、イギリス、オランダと3つある。

先頭の指揮艦船には、アルレシアが海軍のハットを乱暴に取って手をあげる様が見える。


「先のアルレシア商船撃沈事件に対する報復として、アルレシア枢密院およびアルレシア軍統合幕僚庁はフランスへの宣戦をここに告げる!!…フランスてめぇぶっ潰すっ!!!」


言い終わるなり、アルレシアは掲げた腕を勢いよく降り下ろす。途端、艦隊から砲弾が一斉に放たれ、その発砲煙が空に上った。遅れて発砲音が響き渡る。


「げっ、あれアルレシアの船だったの!?ちょ、タンマタンマ、うわぁぁ!!!」


艦隊の前方に展開する10隻から200の砲弾が浴びせられ、フランス艦隊に次々と命中していく。
その飛距離は非常に長く、威力も強い。そして、正確に敵を貫いた。


「次弾装填急げ!!」

「やばいって!総員撤退!!」


移動陣形になったフランス艦隊は、完全な攻撃陣形となったアルレシア相手にまともに攻撃などできない。
木造の船が真っ二つに折れ、マストが倒れ、火の手が上がる。
フランスは侵攻を諦め、撤退を開始した。


フランスの撤退が終わる頃には、アルレシア軍がイギリスたちのところまでやって来た。
指揮艦船が並び、甲板からイギリスたちとアルレシアが顔を合わせる。


「お前ら大丈夫か」

「なんとかな…にしても、ずいぶん早かったな」


イギリスが訝しむと、アルレシアは苦笑する。


「元からこっちから攻撃するつもりだったんだよ。たまたまだ」

「負債は大丈夫なんか」


アルレシアの出陣理由である商船撃沈によって、アルレシアの対外債務返済の見込みは白紙だ。
ちなみに、最も多額の負債を抱えているのはオランダだ。ついでフランス、スペイン、スウェーデンと続く。
イギリスは騒乱を解決した際に、騒乱で生じた負債を請求しないと決めてある。


「悪いな、オランダ。まだ返せねえから…その、体ででも払う」

「のくたいこと言うんやない。半額にしたるし、なにより…お前は元から俺のもんやろうが」

「オランダ…」


顔を赤らめるアルレシアと、甘く微笑むオランダ。
他所でやれ、というイギリスの心の声は、周辺艦船の船員たちと共通だったが、2人に届くことはなかった。


***


その後、アルレシアはフランスに深追いすることはせず、イギリスやオランダに陸軍を派遣して大陸部で戦わせる以外に戦闘に参加することはなかった。
オランダ侵略戦争でアルレシアが北ドイツや北欧での戦線をオランダ優位に進めてしまった苦い経験から、フランスはアルレシアへの直接的戦闘は吹っ掛けないでおいた。
それもあり、第二次アルレシア継承戦争はたった数回しか交戦しないまま、ネーデルラントやドーバー海峡でイギリス・オランダ軍の一部としてしか実行されていなかった。

軍需によって国内経済を復活させたアルレシアは、同盟の礼として負債を減額してくれたオランダへの返済を終え、スウェーデンに対しても30%ほどを返済し終えた。

大同盟戦争の戦局は、終盤になってようやく同盟側が優位に立ち、1697年、レイスウェイク条約が結ばれた。

フランスはルクセンブルクなど多くの領土を返還し、ケルンなどすべての継承問題を同盟側に譲った。

アルレシアは、継承問題からフランスを撤退させ、さらにフランスに対して抱えていた負債を帳消しにさせた。

こうして、17世紀最後の大戦争は終結した。
1601年から1700年までの100年間、戦争が起きていなかった年は4年間しか存在しない。そんな戦争の嵐で欧州は荒廃し、ネーデルラントは毎度毎度戦いの舞台となって没落。
大陸部の消費の落ち込みは、アルレシアの輸出の減少をもたらし、アルレシア経済はゆっくりと衰退していっていた。


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