北海の覇者
13世紀、パックス・モンゴリカと呼ばれた時代。
このとき世界史上最大の帝国が、ヨーロッパを蹂躙していた。
そんなときに西ヨーロッパで最強だったのが、紛れもないアルレシアだった。
これは、アルレシアが大国の座を欲しいままにするきっかけとなった事件の話である。
***
1236年、モンゴル帝国のバトゥ将軍が率いた西方遠征軍は、現在のロシア中西部に位置したヴォルガ・ブルガールへ侵攻した。
1240年までにバトゥはヴォルガ・ブルガールやその西側にあるルーシ系の国々を完全に征服し、さらに西へと進む。
ヴォロディームィル=ヴォルィーンシキーという旧キエフ領内の都市から、ポーランドの東端にあったルブリンへ侵攻しこれを破壊。
そしてヴィスワ川を渡り、サンドミェシュでポーランド軍と対峙した。
「なんかヤバイ気がするしー」
「いや、普通にヤバイですよ!」
焦る部下にポーランドは「マジ〜?」と気の抜けた返事を返す。
焦るのももっともで、サンドミェシュはすでにモンゴル軍に包囲されている。
「ん〜、仕方ないからプロイセンとテンプルに頼むわー」
「先に脱出してからですよ!」
ポーランドは部下に連れられサンドミェシュを脱出する。
1241年2月13日、サンドミェシュは壊滅し、これよりモンゴル軍は3つに分かれて東欧を荒らし回る。
バトゥ率いる西方遠征軍本隊は、サンドミェシュから南下しハンガリーに侵入。モヒの戦いにおいてハンガリー軍を全滅させ、ハンガリー全土を掌握する。
バトゥの部下であるバイダルは、サンドミェシュと西部の大都市クラクフの連合軍と戦い、これを破った。これによりポーランドはパニック状態となり、クラクフは市民が脱出した後にモンゴルに焼き払われた。
もう一人の部下、オルダは北へ進軍し至るところを破壊、シロンスク(シュレジェン)の中心都市ヴロツワフに入った。ヴロツワフにいたシロンスク公はモンゴル軍が来る前にレグニツァに退いており、そこでボヘミア王国の援軍を待っていた。
ヴロツワフでバイダルとオルダは合流し、シロンスク公とボヘミア軍が連合するのを防ぐためレグニツァへ進軍。
レグニツァにいたドイツ騎士団、テンプル騎士団、ポーランド、付き添いのリトアニアはモンゴル軍に太刀打ちできず、ワールシュタットと呼ばれる大敗を喫した。
それは、瞬く間に欧州に恐怖として知れ渡る。
「ポーランドにモンゴル?」
アルレシアはそんな部下の報告に眉を潜めた。巨万の富をもたらすバルト海交易に混乱が起きていることについて調べさせていた部下は、さっそくワールシュタットの話をもたらしてくれた。
「世界の果ての異国だろ、それがこっちにまで来たってのか」
「陶器の帝国(中国)やペルシア王朝、トルキスタン周辺を征服し、ルーシ諸国を占領し、レグニツァまで進軍しています」
「…こっちまで来るつもりか」
恐らく、モンゴルの狙いはウィーンだろう。
それを考えれば、北海の島国であるアルレシアは対象外のはず。
「つってもな…大陸諸国がやられたら貿易が成り立たなくなる…」
主要産業たる貿易が滞るのは、この国にとって死活問題。それは防がねばならない。
ヨーロッパ最大の国力を持つ国としての責任もある。
「オーストリアや神聖ローマ、ネーデルラント兄弟に戦わせるわけにもいかねえし…仕方ない、俺が出るか」
「えっ!」
部下は驚いたように声を上げた。
手を出さなければやられないのに、自ら行くのだ。
「俺が守ってやんねえとな」
ふっと笑って言ったアルレシアに、部下がまた一人堕ちていった。何にとは言わない。
こうして、アルレシアは西欧への侵攻を止めるべく、戦火に包まれるポーランド王国へと向かったのであった。