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1707年までにフランスはライン川とネーデルラント西部、サヴォイア、スペインの支配を固め、 膠着状態が続くネーデルラントと北イタリアも攻勢をかければフランス有利になる状況にあった。

自身の優位を確認したフランスは、ここでアルレシアへの侵攻を決断する。
前回はこちらが仕掛けると同時に、偶然にもアルレシアも参戦してきたために太刀打ちできなかった。

しかし今回は違う。中立となっている上、空位時代のためにどこの国とも関係がないアルレシアは油断しているはずだ。
さらに今回はスペインもいる。
デンマークも大北方戦争で参戦できない。

アルレシアへの攻撃によって、まずイギリスとポルトガルの連携をとりにくくしてスペイン戦線の勝利を確定させ、さらにオランダとイギリスを東から叩く。陸軍でネーデルラントを攻撃すればオランダもイギリスも多方面展開を強いられるはずだ。

そして1707年11月、フランスはルイ14世のアルレシア王位を主張し、第三次アルレシア継承戦争が始まった。
本来ならスペイン継承戦争の戦線のひとつに過ぎないはずだったこの戦争は、誰にとっても予想外に拡大することとなる。


***

すでに冬のそれとなった北海、フランスとスペインの連合艦隊50隻は、イギリスやオランダ、アルレシアの隙をついてイギリスの北側を回ってやってきた。
ドーバー海峡ルートだと予想していたため、完全に背後を突かれた形だ。


急いでアルレシアは方向を北に向けるが、そのときにはすでにフランス艦隊からの砲撃が始まっていた。


「くっそ、あいつなんてマネしやがる…!」

歯ぎしりをして、アルレシアは指示を次々と出していく。
動揺する兵士たちを叱咤し、迎撃の準備をさせるが。

砲弾は次々とアルレシア艦隊を沈めていき、悲鳴混じりの爆音や木の折れる音、倒れるマストとロープの唸る音が海上に満ちた。


「…っ、数が多すぎる…」


こちらの倍はある。スペイン艦隊はフランスから離れてアルレシアを回り込むように移動し、様々な方角から砲弾が浴びせられた。

やがてフランスとスペインによって完全に囲まれ、撤退すらできなくなっていた。
じわじわと包囲は狭まり、フランスとスペインの指揮艦船がアルレシアの乗る艦船に激突する。


「ちっ、ここまでか…!」


船と船が合わさったところから、フランスとスペイン、そしてそれぞれの兵士たちが甲板に乗り込んできた。


「やっほー、アルレシア。元気にしてる?」

「嫌味か…」


フランスはブーツの踵を鳴らしながら、アルレシアの前に立ちはだかった。
スペインはアルレシアを背後から抱き抱えるようにして拘束する。


「はぁー…、久々のアルレやぁ…」

「変態か…!」


身動きが取れないアルレシアは、フランスを睨み上げることしかできない。
それにもフランスは口角を上げるだけだったが。


「いやぁ、いい眺めだねぇ。ほんと、そそるものがある」


そう言いながら、フランスはアルレシアの頬から首筋にかけて手を滑らす。


「どこもらっていこうかな…?」

「てめぇにくれてやるもんはねぇ」

「おやおや、口が悪い子猫ちゃんだ」


フランスがそう言ってアルレシアの服に手をかけた、そのときだった。

どこからか砲弾が撃ち込まれ、スペインの指揮艦船を直撃した。
突然の衝撃に全員が驚いていると、物見台から怯えた声が落ちてくる。


「あ、あれはオランダ軍で…ヒッ!!」


恐らくものすごい形相なのだろう。オランダの姿を見てしまったらしい見張りが引き攣った悲鳴を上げる。


「ほの汚い手ぇ放しねまぁぁあああ!!!!」


そんな怒号とともに、オランダ海軍がスペイン艦隊を蹴散らし、包囲網を崩す。
そして、オランダが乗る指揮艦船がアルレシアたちがいる船に減速せず突っ込んだ。
ぐら、と船は危うい揺れかたをする。


「アルレ!こっちやざ!!」


オランダの声に、アルレシアは考えるまでもなく走り出す。 衝撃でスペインの拘束は解けていた。
他のアルレシア兵もフランスたちも、みんな急いで沈み始める船から離れる。
アルレシアは離れ始めたオランダの船目掛けて全速力で走り、そして柵に飛び乗ってそのまま空中へダイブする。

その先にはオランダが船首で両手を広げて待っていた。

ほんの少しの浮遊感、直後、内臓が置いていかれるような感覚とともに落下が始まり、次の瞬間にはオランダの胸に抱き留められ、甲板に二人して倒れこんだ。
恐らく、 オランダの余裕の受け身から察するにわざと倒れることでアルレシアの衝撃を逃がしたのだろう。

背後で船が沈没していく轟音を聞きながら、アルレシアは下敷きにしてしまっている オランダを上半身だけ起こして確かめる。

「大丈夫か…?」

「問題あらへん。アルレこそケガないんか」

「オランダのおかげでな」


オランダも体を軽く起こして、肘で上体を支える。
体が重なったまま、二人は至近距離で目が合い、 そして、 何も言わずに唇を重ねていた。
この温もりに、何度救われたか分からない。


「…ありがとな、オランダ」

「……ん」


ぽす、とオランダの肩に頭を預けると、慣れたように撫でられる。ぎゅう、と抱き着けば、左腕で体を支えつつ右腕でアルレシアを抱き締めてくれた。


「大丈夫ですかおふたり…とも…すみません、お邪魔しました」


二人は、心配して来てくれた兵士に見られるまで、その状態を続けた。
羞恥でアルレシアがしばらく船の客室から出てこなかったのは別の話である。


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