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翌1708年1月、アルレシアはイギリス、オランダ、ポルトガルと軍事同盟を締結し、次の戦いに備えた。
先のアルレシア北方沖海戦でアルレシア海軍の6割以上が沈められており、同規模の侵攻には恐らく耐えられないことから、この同盟はありがたかった。


「べ、別に俺にとってお前がやられるのは不都合だからやるんであってな、」

「俺はアルレんためやざ」

「俺もやで〜」

「なっ…!」


相変わらずの調子だが、事実、イギリスとオランダは国防上アルレシアがフランスに支配されるのは危険だった。
ポルトガルも、 主要な貿易相手であるイギリスやアルレシアとの貿易が北海で止められてしまわないよう支援する。


「…なんでもいいけど、まぁ、ありがとな」


どんな理由であれ、誰かが自分のために動いてくれるというのはありがたいものである。
少し照れたように笑うアルレシアに、「この男前天使守らないと」と決意を固める3人だった。


しかし、今回のフランスは前2回のときとは大きく違っていた。
直接攻撃を仕掛けたのは最初だけで、以降は大西洋上でのアルレシア商船撃沈による通商破壊作戦を行ったのだ。
アメリカ大陸やアジアとの貿易のための商船が大西洋で沈められ、1708年1月からの3ヶ月で国家予算の3倍近い損失額を被った。

アメリカではイギリス、アフリカ沖ではオランダとポルトガルの海軍が警備にあたってくれているが、広大な大西洋では難しい。しかもフランスは海軍だけでなく海賊まで使っている。

このような戦い方は初めてだったため、まったく対処できずアルレシアはあっという間に不景気による高熱にうなされることとなった。

熱に苦しみながら、アルレシアはスウェーデン宛に手紙を書く。内容は、かつてアルレシア騒乱で生じた負債の返済が延期になることの通告だ。
まだ70%ほど返し終わっていない。

ライン川でのフランスとオーストリア、イギリス、オランダの戦闘が激化し、アルレシアのそのような状況を見て動き始めたのは、プロイセンだった。

スペイン継承戦争でフランスと戦うことで王国への格上げをオーストリアに認められたプロイセンは、しばらくアルレシア侵攻を躊躇っていたが、この第三次アルレシア継承戦争は別枠の戦争であると見なし、オーストリアもアルレシアとは同盟していないことから、侵攻を決意したのだ。

このときプロイセンは、弱くはない海軍と非常に強い陸軍を持っていた。
大北方戦争はまだ様子見の段階であったため、プロイセンは今のうちにと王位を主張して軍事侵攻を開始した。

中立国プロイセンはスカゲラク海峡を難なく通過し北海へと出て、がら空きになっていたアルレシア東部の海岸に上陸。
東欧最強の陸軍が、アルレシア本土に放たれた。

1708年4月、アルレシア継承戦争は新たな段階に入る。


***



「はぁ!?プロイセンが上陸!!??」


珍しく本気で驚くアルレシアに、伝令が思わず「すみません!」と謝る。

プロイセンの軍事改革で生まれた陸軍が強いことは噂で聞いていた。一方のアルレシア陸軍は、それなりに強いものの実戦経験がない。
なぜなら、最後に陸軍が出たのは40年近く前、アルレシア騒乱で上陸したイギリスに対してだ。
オランダ侵略戦争で出兵したのも30年前であるし、そのときはオランダの指揮系統の下に置いていた。

王都レガリスタードまで進軍されるのも時間の問題だ。

イギリスたちを呼ぼうにも、海軍ならまだしも陸軍はネーデルラントやライン川戦線にかかりきりである。


アルレシアは王宮の窓から見える王都の景色を見遣る。
城下はプロイセン上陸の知らせで混乱していた。人々が荷車に荷物を乗せ、次々と街を出ようと動いている。
経験のない出来事に、まさにパニックというに相応しかった。

このままではいけない。アルレシアは王宮中央、枢密院へと向かった。


「すぐに我々陸軍が動きましょう!」

「何を言ってるんだ陸軍、そんな力がどこにある」

「なにぃ!惨敗した海軍には言われたくないな!」

「近衛兵、憲兵、禁軍の幕僚はまだか!!」

「私兵をかき集めて戦うか…?」


慌てる貴族たち、怒鳴り散らす幕僚たち、ひたすら議論を続ける官僚たち、室内も同様に混乱状態だった。
アルレシアはバン!と机を叩く。
瞬間、部屋は静まり返った。


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