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「現在、プロイセンは王都の東10マイレン(15km)まで侵攻。陸軍東方師団が歩兵10隊、胸冑騎兵5隊、槍騎兵8隊、竜騎兵9隊と大砲12門で応戦中ですが、あと四時間と持たないでしょう。西方師団から援軍が向かっていますが、間に合いません。憲兵は城下の混乱の鎮圧、近衛兵は王宮の防御策を施しており手が空いていません。禁軍は間もなく幕僚が到着します」

アルレシアはまず、淡々と戦況を伝えた。
アルレシア本土の東西に存在する師団のうち、東方師団は応戦し、西方師団も応援に向かっている。
胸冑騎兵は敵陣に突っ込む騎兵、槍騎兵は対歩兵用の騎兵、竜騎兵は馬で移動できる歩兵である。
憲兵は王都レガリスタードや外港ポルタスヴィアの治安維持を行う兵隊で、近衛兵は王宮の警護を行う。禁軍は国王直属の軍隊だ。
陸軍、海軍、憲兵、近衛兵、禁軍それぞれの幕僚を合わせて統合幕僚庁という機関が存在する。


「西方師団は間に合わないので、レガリスタードに方向を変えさせここを守らせましょう。東方師団も壊滅する前に撤退を。憲兵、近衛兵は旧市街城壁で防衛にあたり、禁軍は新市街に展開」


ついで、今後の作戦を提案すればようやく静まっていた室内がざわめく。


「アルレシア君、君は、プロイセン軍に王都を包囲させようと言うのかね?」


作戦の意図を正確に理解した陸軍の幕僚が困惑したように尋ねた。
アルレシアはゆっくりと頷く。


「みすみすここまで侵攻するのを手をこ招いて待つのか?それに、包囲戦に持ち込むにはレガリスタードは大きすぎる」


人口50万を数える欧州最大の都市は、城壁の外側に新市街と呼ばれる市街地が広がり、防衛するにはあまりにも巨大だった。
その分、プロイセン側も囲むことができないのだが。


「そもそも戦うことを前提にするところから間違っています」


しかしアルレシアは、少しも声のトーンを変えずに続けた。
再び沈黙。そして、もっと大きなざわめきとなった。
特に幕僚たちは騒いでいる。


「考えてみてください」


アルレシアが喋り始めれば、何を言うのかと居心地の悪い注目を集める。


「抵抗心は分かります。ですが、これは逆に好機です。…プロイセンに王位を認めつつ、オランダとの関係を悪化させない。しかも、プロイセンがフランスに対する味方になる。王都を包囲され、"仕方なく"王位を譲っただけなんですから」

アルレシアが意図を話せば、まず官僚たちが「確かに」と納得した。
ついで、貴族たちも継承問題の解決になるため賛成する。
幕僚たちも、軍人と言えどアルレシア人、経済活動の方が優先だ。


「…それもそうだな、うん、ではプロイセンに明け渡そう。仕方なくな」

「そうですね、そうしましょう、仕方なく」

「賛成です。仕方なく、ですがね?」



こうして、プロイセンが王都に着くと防衛していた兵士たちが「ウワー」と棒読みで悲鳴を上げる光景が広がった。


「な、なんだこりゃ…」


一番驚いたのはプロイセンである。
戦いもせず、兵士たちが白旗を上げたのだから。
レガリスタード、無血開城だ。


プロイセンが王都に入るとともに、アルレシアはめちゃくちゃ誇張して降伏したことを各国に伝えた。


「オランダ、ごめんな…!あいつに、王都まで来られて…守り、たかったんだ。街の人たちを…略奪される前に…!」

「アルレ……ええんや、しゃあないやろ…」


思惑通り、オランダとの関係を悪化させることはなく、イギリスやオランダはプロイセンは憎めどアルレシアには心配しかしなかった。
イギリスは何となく気付いていそうだったが、見て見ぬふりをしてくれた。

プロイセンは各国に怒られる前に、フランスに対して攻撃を開始。
ぬるっと北海におけるフランスとアルレシアとの海戦を手伝った。
オーストリアも仕方ないと許し、正式にフリードリヒ1世はアルレシア王に即位した。


ちなみに、終戦後10年くらいしてからアルレシアは真相をオランダに話した。オランダは怒りはしなかったものの、ここぞとばかりにアルレシアの腰が立たなくなるまで夜に責め立てた。
もう騙したりしない、と決意したアルレシアである。


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