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1748年、オーストリアはアーヘンの和約によってプロイセンと終戦し、欧州には平和が戻った。マリア・テレジアはシュレジェンこそ失ったものの、そのほかの領土はすべて奪い返し一体性を維持、大公位と皇帝位をハプスブルク家に確保した。フランスの企みは完全に失敗したが、プロイセンはシュレジェンの領有を固め、フリードリヒ2世は大王と称された。

アルレシアはフランス撤退後のネーデルラントで、オーストリアに頼まれて少しの間軍を駐屯させた。フランスとの国境にあるネーデルラントにイギリスを駐屯させるわけにもいかず、オランダは兵にかかる金を嫌がったためだ。オーストリアはネーデルラント経営に興味がなかったため、最終的に一番国際関係に影響を与えない中立のアルレシア軍が選ばれたのである。

ボロボロの町を歩くと、同じくボロボロの2人が目に入る。
かれこれ100年近く、欧州で戦争になるたびに戦場となってきたネーデルラントの2人は周りに振り回されてばかりだ。落ち込んでいるのかと思ってきてみたのだが、なにやらルクセンブルクは楽し気にベルギーと話している。


「よっ、どうした?」

「あっ、アルレ兄ちゃん!」

「アルレ兄さん!」


ぱっとこちらを見た2人。ルクセンブルクはこちらに駆け寄ってくるなり、アルレシアの手を握った。


「僕ら、兄さんならこんなときにどうするのか考えたんです」


ここでの兄さんはオランダのことだろう。アーヘンの和約もそうだが、ネーデルラントにおける戦後処理はオランダが各国の調整をしていた。ヨーロッパの十字路の番人である。
オランダなら、2人のような状況になったときどのように考えるか、とうことか。

ベルギーも駆け寄ってきて、苦笑しながら補足説明をする。


「いやぁ、お兄ちゃんならどう慰めてくれるかなぁて考えとったんやけど…お金稼いで金塊に変えとき、とか、家掃除せな、とか、そういんしか浮かばなかったわ…」

「僕も同じことを考えたんです。つまり、欧州の金融を手中に収めてがっぽがっぽお金を稼ごうと!」

「金融かぁ…ロンドンとアムステルダムは手ごわいぞ?」

「そこが問題なんですよね…」


欧州金融の中心は、今も昔もイギリスとオランダだ。特にロンドンのシティは、世界最大の金融街を維持している。産業革命によって工業国と思われがちなイギリスだが、実はイギリスの工業は初期を除いて大赤字。イギリスの国際収支の黒字を支えたのは工業ではなく、金融による利子収入なのである。
シティの大金持ちたちはイギリスの植民地に対する融資でこの時代は儲けており、オランダも貿易そのものから徐々に金融による利子収入のウェイトを大きくしていた。
イギリスはそもそも金細工職人ゴールドスミスによる金融業の始まりであるし、オランダは先物取引と手形発行による紙幣流通の先駆けだ。

この時代からその片鱗を見せる両国に挑むのは容易ではない。ちなみにロンドンとアムステルダムから融資を受けてアルレシアは中継貿易をしたり、欧州が戦争状態になったときに中立国であるアルレシアが代理運搬を行って安全に貿易を維持する商売をしたりしている。



「まぁ、とりあえずはうまく立ち回れよ。原資がなきゃどうにもならねぇし。応援はしてやる」

「ありがとうございます、アルレ兄さん」

「おー。ベルギーもケガすんなよ」

「うん!へへ、」


2人の頭を撫でてやると、2人とも嬉しそうに笑う。やっぱり、ネーデルラントは甘やかしてしまうなぁ、とアルレシアは内心思った。


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