18世紀も危機: 三枚のペチコート作戦


イギリスはロシアに対して財政支援をする代わりに、軍の一部をバルト海のラトビアとリトアニア周辺に配置するよう求めた。ロシアの女帝エリザヴェータは、てっきりこれが対プロイセンのためのもので、このあとイギリスは前回同様オーストリアに味方するのだと思っていた。しかし本当は、ただ有事の際にハノーファーに動かせるようにするだけだった。
そんな中、オーストリアがフランスの態度を軟化させるために南ネーデルラントのフランス割譲を考え出すと、イギリスの態度は硬化した。オランダが中立を維持する以上、ネーデルラントがフランス領になればイギリスの国防に深刻な影響が出る。ハノーファーだけでなくイギリス本土まで容易に攻撃できるからだ。


「おいプロイセン、オーストリアは信用ならねぇからお前と同盟してやる」

「マジで!?よろしく頼むわ!」


ロシアとオーストリアが同盟している以上、オーストリアが信用ならないならロシアと仲良くする義理はない。イギリスはプロイセンへと乗り換えた。どうせフランスとオーストリアが同盟するわけない、という考えもあっただろう。
プロイセンはいよいよ戦争の準備をするオーストリアに、同盟するロシアと挟撃されるのではないかという懸念を強め、焦りに駆られていたフリードリヒ2世は、イギリスからの同盟の申し出に二つ返事で頷いた。

こうして1756年1月、イギリスとプロイセンは同盟を結んだ。それは両国にとって、オーストリアをけん制し、戦争にならないようにするためのものだった。そのため非常に慎重に条約の文面が作られて発表されたのだが、オーストリアはイギリスに頼れないことを確信し、フランスは唯一まともな同盟を結んでいたプロイセンが裏切ったことで不安に駆られた。


「なるほど、イギリスはプロイセンと同盟したのですね…それでは、私がとるべき選択肢はただ1つ」


マリア・テレジアは、事前に用意していた手紙を取り出す。それは、フランスとロシアへの手紙。


「あなたには抵抗があるかもしれませんが…この手紙をフランスに送ります」

「断固拒否します!!!」


オーストリアは珍しく声を荒げて手紙を奪おうと近づく。


「ハンガリー!押さえてください!」

「光栄です!」

「私があの方とどれだけ仲が悪いかご存じでしょう!?あんな方と友達になるくらいなら、よそで花でも売って暮らします!!だからやめ…」


しかしマリア・テレジアは手紙を伝書バトに乗せて送ってしまった。ハンガリーの腕の中で、オーストリアは一気に力が抜けた。
まさかその手紙がエロイーズの手紙をまねたものだと知れば、オーストリアはセルフ第三次プラハ窓外投擲事件を起こすことだろう。

この外交革命は欧州全体を驚かせた。どの国も、オーストリアがフランスと同盟することはないということを数百年前から自明のこととしていたからだ。

イギリスの家で、アルレシアは報告書をもって震えるイギリスの手元を見て、目を見開く。


「えっ、は!?嘘だろ、あいつらが同盟て…」

「あいつらだけはないと思ってたのに…」

「…お前とプロイセンが先に同盟したからか。いや、ロシアがキレるとは思ってたけど、まさかここまでのことになるとは…」


アルレシアの懸念は、イギリスがロシアに接近したあとにプロイセンと同盟することになれば、それは二枚舌外交であり、ロシアをいたずらに刺激してしまうというものだった。現にロシアへの接近後にネーデルラント問題が出てきて、イギリスはプロイセンとの同盟を発表し、オーストリアをけん制した。だが、オーストリアはこれを機にさらに先まで、つまりフランスとの同盟にまで踏み込んだらしい。フランスも、プロセインに対して裏切りだと思っていたのだろう。悪友は仲が良いんだな、と場違いなことを思う。
フランスでも当然議論はあったが、王の愛人で事実上実権を握っていた『無冠の女帝』ポンパドゥールの働きが大きかったようだ。

そのうえ、アルレシアの当初の懸念そのものもなくなってはいない。すなわち、ロシアは今、イギリスの二枚舌にキレているはずなのだ。




その頃、オーストリアの家ではマリア・テレジアがロシアへの伝書用の鷹を飛ばしていた。従来からの秘密同盟を正式なものに刷新し、フランスとの同盟と合わせようというのだ。


「フランスとロシアと同盟し、プロイセンを包囲します…!」

「女王様〜!ひとつ伝えたいことがー!」

「はい、なぁにハンガリーちゃん」

「さっきからオーストリアさんが息してないんですけど…!!」


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