4


カールの出自について、枢密院は専門家をミュンスターに派遣して調査を開始した。それは1年に渡って続き、結果が議会にて報告される。

ハノーファー兵、カール・フォン・ハンザ=ブルボンは、アルレシア王室の血をわずかながらもしっかりと引く者であると証明された。


神聖ローマ皇帝カール6世とアルレシア王女マリアとの間に生まれた姉妹のうち、長女アンはオラニエ公と結婚した。次女カトリーンはブランデンブルク選帝侯に嫁ぎ、娘エリザは1538年にザクセン公と結婚。さらにその娘アイリスはデンマーク王と結婚し、そしてその娘エリザベスが1565年にヴァンドーム公ルイと結婚した。ルイとの間に生まれたのが男児シャルルで、これ以降の系譜は分かっていなかった。シャルルはコンデ公の娘カトリーヌと結婚し、プロテスタントであることを理由にユグノー戦争下のフランスを逃れて遠くブレーメンまで逃れた。そこで子供アンドレを生み、一家は庶民に紛れて暮らし、アンドレは1613年に庶民の娘と結婚。
以降は北ドイツを戦争の度に転々としながら暮らし、最終的にミュンスターに落ち着いた。ミュンスター郊外でそれなりのお金持ちとして暮らしていた一族は、名前にブルボンを冠するだけあって周囲からも名家として知られていたようだ。

それから100年あまりが経ち、今日。
長男であるカールはノブレス・オブリージュとばかりにハノーファーのために戦役につくことを決め、こうしてアルレシア王国までやって来た。そこで、偶然宿泊していた離宮の家系図を見て驚いたのだそうだ。
さかのぼれる最古の人物が、まさかアルレシア王室の人間だとは思わなかったらしい。

そうして正式に、カールに対して即位の打診が行われた。名家とはいえ地方都市、しかも自身は一介の兵士に過ぎなかったのが、突然かつて北海の覇者と謳われ、いまだに欧州トップクラスの経済力を誇る王国の王になるよう求められたのだ、驚くというレベルの話ではないようだった。


応接室で立ちすくむカールと、その前に並ぶ枢密院の貴族たち。
アルレシアは苦笑して、カールの意識をこちらに戻す。


「おい、しっかり」

「はっ…ほ、本当に私でいいんでしょうか…」

「お前が王になるんだよ!」

「ええ…!」


さすがに冗談だ。しかしカールはそれを受け止める余裕すらないようで。
貴族たちが滾々と国王が必要な理由を話せば、カールはこの国ににどれだけ必要とされているか分かったらしい。弱冠19歳の若者だが、カールは弱い人物ではないようだ。むしろ、兵士らしくその性格は男らしかった。


「…皆さまがそれでいいのなら、私は構いません」


一度目を閉じて息を吐いてから、カールはそう言い切った。自分のためではない、誰かのためにそう決意したカールに、アルレシアは微笑んだ。
そうして、その前に跪く。


「これまでの非礼をお許しください、陛下」

「えっ!?」

「これからは、あなたとあなたの子孫とともに」


手の甲にキスを落とす。カールは突然のことに驚いいたあと、顔を真っ赤にして頷いた。アルレシアの笑顔に至近距離で見上げられたためだ。貴族たちは若いな、と微笑ましそうにしていた。



その後、様々な準備をしている間にアルレシアはイギリスのところに向かった。現在の国王はイギリスとの同君連合だからだ。いくら実権がずっとアルレシア王室にあったとばいえ、これは完全な独立だ。
イギリスの家に赴くと、イギリスは心得たように中に通した。


「…なぁ、国王のこと、なんだけど」

「知ってる。良かったな、見つかって」

「え…」


さらりと言ったイギリスに驚くと、イギリスは苦笑した。あまりにも普通、というか何でもないような態度にこちらが困惑してしまった。


「もともとあってないようなもんだったしな。それに何より…アルレシアが、それを望んでるんだろ?」

「あぁ…」

「それなら、叶えてやりたい。…前はさ、お前の事好きだって気持ちを抑えることができなかったけど、今は違う」


かつてイギリスはアルレシアのことを好きだと言って迫ったことがあった。あのあとすぐに第二次英蘭戦争とアルレシア騒乱が起きた。


「…お前の自治権を認めた、あの騒乱のときにさ、言っただろ。綺麗なもんに昇華するって。もう、俺の中でのお前への気持ちは、そういう…なんつーか、宝物ってか、大切なものだけど、実のあるものじゃなくなった。だから、もうこだわったりはしない」


イギリスはそう言うと、アルレシアの肩に手を置いた。


「…おめでとう、アルレシア。これからも、お前の隣の国として、お前のこと守ってやるから」

「…っ、イギリス…!」


本当に心から良かったと、そういう笑顔で祝ってくれたイギリスに、アルレシアはそっと抱き付いた。それは、友との再会を喜ぶような、そんな爽やかなものだった。


「…俺も、なんかあったら力貸すから」

「利子はサービスしてくれよ」

「先にシティが下げたらな」

「こんなときでもお前はタフだな」


はは、とおかしそうに笑うイギリスに、ようやくアルレシアも笑うことができたのだった。


65/94
prev next
back
表紙に戻る