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1778年、アメリカ独立戦争は国際紛争としての色を濃くする。
イギリスはアメリカの力を弱めるべく、欧州から大陸への一切の交易を封じる手段に打って出た。
中立国船舶捕獲宣言、つまり対米海上封鎖である。
これに対して一番最初に反対の声を上げたのはスウェーデンで、そのほかデンマーク=ノルウェー、ロシア、ポルトガル、プロイセンである。
「さすがに横暴だない」
「やりすぎだっぺぇ!」
「イギリス君って基本勝手だよね、七年戦争のときの二枚舌忘れないからね」
「さすがの俺も容認できへんわ〜」
「おめぇの同盟国ねぇから!」
中立国は大陸貿易を妨害されることによる経済的損失から、イギリスに対して反発を強めた。
ロシアのエカチェリーナ2世は、航行の自由を宣言し、それにこれら中立国が追随、やがて1780年には武装中立同盟として組織化された。
1778年から1780年にかけて、フランス、スペイン、オランダはイギリスに対して正式に宣戦布告していたこともあり、イギリスは完全にぼっちとなった。
そうした状況下で再び注目されたのはアルレシアの対応だった。
もうイギリスの同君連合ではないため、アルレシアもイギリスの拿捕対象となる。武装中立同盟に参加するのか、オランダたちとともに戦うのか、それとも逆にイギリスにつくのか。
アルレシアが出した答えはいずれでもなかった。
まずアルレシアはイギリスの家を訪れた。欧州でのけものにされて、国がやってくるのは久しぶりのことになる。
イギリスは何のつもりかアルレシアを探るように見ながら屋敷に上げてくれた。
「なんの用だ?」
「これにサインして欲しくて」
手短に、ソファーに座ったアルレシアは机に紙を出した。それをイギリスは読んで、その濃い眉を上げる。
「…なんだこれ」
「時限式の通商協定。5年間有効ね」
「そりゃ分かる。俺がサインすると思ってんのか」
イギリスは怒るというより、不思議そうにしていた。
その内容というのも、アルレシア籍の船舶およびアルレシアからの貨物について、自由な貿易を認めるというものだった。つい先日、海上封鎖を宣言したばかりなのにである。自分だけ拿捕せず認めろなど、あまりに短絡的な要求だった。
思慮深いアルレシアがこのような乱暴な協定を持って来たことに、イギリスは訝しんでいるのだ。
「俺は合わせて通関法を改正する。俺の国に下ろされた外国貨物を、申請すれば俺の国への輸入でなくとも内国貨物にする法だ」
「それが?」
「ウィンウィンなんだよ、イギリス。孤立したお前と欧州やアメリカとの輸出入が事実上可能になる」
本来、正式にその国への輸入する貨物でなければ内国貨物とはならない。輸入通関を経て国内に入ったものと輸出通関前の貨物を内国貨物を呼ぶからだ。外国貨物とは、輸入通関を受けていないものか、輸出通関を受けたものを指す。
それを、改正法案では申請すればアルレシアへの輸出でない貨物でも、通関せずにアルレシアの内国貨物とできる。これが意味するところは、アルレシア発着の貨物の本来の輸出国と輸入国が分からなくなるということだ。
簡単に言えば、アルレシア経由で貿易すればアルレシアからの輸出入となる。それはつまり、イギリスが戦っているオランダやフランスの貨物でも、アルレシアを経由すればイギリスは受け取れるし、逆も然り。敵国との貿易ができるシステムである。
「…そりゃ確かにウィンウィンかもしれねぇが、そんな協定、俺はなくても平気だ」
「確かにイギリスの国力ならそうだろね。ま、別に嫌ならいいよ。でも俺の領海ってイギリスのすぐそばじゃん?間違って拿捕されそうで怖いんだよな」
「はぁ?」
「だから、俺も北海の領海で無制限に中立国船舶を拿捕しようかなって。イギリスが俺に対して拿捕をする限り」
「なっ…そういうことか…!」
力のあるイギリスには、アルレシアは提案した協定はなくても良いものだ。それはアルレシアにも分かっている。
だから、北海封鎖を脅しに使ったのだ。北海を封鎖して被害を被るのはイギリスではなく、ロシアやデンマーク、スウェーデン、プロイセンだ。オーストリアやドイツ領邦たちもそうだ。
そうなると、各国はイギリスの海上封鎖による致命的な被害を受けたことになる。そこで、ハノーファーへの攻撃やイギリス本土への侵攻が現実味を帯びてくる。
フランス、スペイン、オランダに加えて、すべての欧州の主要国家が中立からイギリスに宣戦することになれば、この戦争で決定的な敗北を喫することになる。
アルレシアはそれを狙っているのだ。各国は直接アルレシアを攻撃するより、アルレシアも仲間に加えてイギリスを叩く方が速い。
「チッ、分かったよ」
「話が早くて助かる。いいじゃん、イギリスには得になることなんだから」
「そういうことじゃねぇ」
イギリスは渋々協定にサインした。アルレシアはニヤリとする。
これで、アルレシアは新大陸貿易と欧州の海上貿易を一時的に独占することになるのだ。