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1780年、アルレシアはイギリスとの間で5年のみ有効の時限協定を締結した。同時に通関法を改正し、商船と軍艦を足して二で割った重武装商船を建造、新大陸へ攻撃されてもいいような船による定期便を開始した。
正直イギリスとの貿易が止まること自体が不利益だった欧州諸国は、これ幸いとばかりにアルレシア経由の貿易を始めた。敵国との貿易ができるだけでなく、イギリスの海上封鎖によって滞っていた中立国同士の船舶交易も保障されることになったからである。
新大陸への輸出入も定期的に行われるようになったことで各国は経済的な苦境を緩和することに成功し、孤立したイギリスもその悪影響を縮小させることができた。
改正通関法では、アルレシアに対する貨物でないものを内国貨物とする申請に手数料を徴収することが定められており、更に新大陸貿易法では、定期便に貨物を振り替える手数料と港湾使用料、重武装商船使用料を新たに追加。輸出相手国関税の建て替え手数料や、アルレシア国内の陸上輸送利用料など様々な追加徴収を行う。
これは小さくない額だったが、貿易そのものが止まるよりはマシだった。
こうして欧州諸国の貨物や新大陸の貨物はほとんどがアルレシアに集積されるようになり、戦争が終わるまでとはいえアルレシアによる海上貿易の独占が続いた。
しかし、アルレシアがそうして莫大な利益を上げている一方で、オランダは第四次英蘭戦争によってイギリスの猛攻を受けていた。海軍が打撃を受け、オランダの海上帝国としての覇権の揺らぎは、もう決定的なものになりつつあった。
当然オランダとの貿易が続くアルレシアはオランダの家にも訪れるが、だんだん疲弊していく姿に動揺していた。
「…なぁ、俺も参戦した方が……」
「なんでや。アルレが参戦する大義はないやろ」
「…でも、」
「アルレかて分かっとるやろ、自分がほんな簡単に態度変えられる立場やないて」
オランダの言う通り、アルレシアはこの積極的な中立姿勢をやめるわけにはいかなかった。ここでオランダ側に立って参戦すれば、あっという間にイギリスにボコボコにされるだろう。
何より、ただオランダが近くで傷ついているのに自分だけのうのうとしていることが許せないという、ひどく個人的な理由だったのだ。
それで国家が動かないことくらい、アルレシアにも分かっている。
「…それでも、俺は…」
「分かっとる。俺のこと考えてくれとるんはよう伝わっとるさけ」
オランダが傷ついているのに自分がどうしようもできない、という立場に動揺し、それを分かっていながらもし参戦したら、なんて考えてしまうアルレシアのぐるぐるとした思考はオランダには筒抜けだったらしい。
オランダはアルレシアを抱き締めると、優しく後頭部を撫でつける。
「ほう思ってくれとるだけでええ」
「……軍艦作り直すの手伝う」
「恩に着る」
そうして1783年、ついにイギリスは諦めた。
アメリカは正式に独立宣言をし、国家として自分の足で立ったのである。
まず最初にスウェーデンが承認し、続いてアルレシアもアメリカを承認した。
イギリスとの協定は終戦とともに撤廃され、通関法はそのままになったものの利用されることはなくなった。しかしアルレシアはオランダやイギリスの軍の状態回復にかかる貿易で儲け続けていた。
戦後処理としては、パリ条約で領土に関する取り決めが行われ、翌年のパリ条約で第四次英蘭戦争も終結した。
スペインはスペイン継承戦争でイギリスに奪われた領土を僅かに取り返し、フランスもわずかに領土を獲得。オランダはインドの都市をイギリスに割譲した。
莫大な金がかかったわりに、フランスの得るところはほとんどなく、いよいよ大革命の日が迫っていた。