すれ違い


「アルレ兄さん、そんなに強かったんですね…」


ヴロツワフ戦の話を聞き終わり、ルクセンブルクは感心したように言った。


「つっても、モンゴルがヨーロッパから去ったのは指導者の死が原因だ。俺が追い返したわけでもなければ、それができたわけでもない」

「でもまあ、それでもあの時のアルレシアのかっこよさは凄まじかったね…お兄さん、あの時は抱かれてもいい!って思っちゃったもん」

「グロいこと言うな髭」

「なんだと眉毛!」


フランスとイギリスが懲りずに小競り合いを始めると、ベルギーがニヨニヨとしだす。


「そろそろやね、お兄ちゃんの話」

「…うるせんじゃ」

「オランダの黒歴史やもんなぁ」

「べとにんめんげや(土に埋めるぞ)」

「俺にだけ当たり強ない!?」


からかうスペインにオランダは容赦ない。元からスペインには当たりが強いが、今はEUの足を引っ張られるイライラもあるのだろう。


「まっ、理不尽なこと思われてたのは確かだよな、オランダ?」


せっかくなのでアルレシアも揶揄する。


「…のくたかったんやざ…歳いった今さけ分かる、」

「や、なにマジに落ち込んでんだよ…」


アルレシアに言われた途端これである。気にしているようだ。


「自分が許せんのじゃ」

「俺が許したんだからいいだろ…」


これだけオランダがひきずるのも珍しい。というか、このことくらいだろう。


「兄さんがこんなにも肩を落とすのも珍しいですね…」


兄弟ながら互いに知らないことが多いルクセンブルクは、そんなオランダの姿に驚いていた。


「アルレ兄ちゃんのことくらいやで、こんなんなるんは」

「ヴぇー、なおさら気になるねー」


あまり接点がないイタリアも、オランダをここまで落ち込ませるものに興味が沸いたようだ。


「…金にならん話はせん、ほやけど、こん話はほれが原因じゃけ、話したる」

「オランダが商談以外の話に積極的に…」


いつしか喧嘩をやめたイギリスも驚いたように呟く。


そしてオランダは、ヴロツワフ戦後から話を始めた。
数百年間の誤解の端緒について。


***


モンゴルの侵攻が退けられた後、アルレシア王国の地位はヨーロッパ最大のものとなっていた。

教皇の承認のもと、ヨーロッパ最高の権威となっていた国は神聖ローマ帝国ではあったが、キリスト教国ではなく中央集権が成され、経済的に成功していたアルレシアは事実上の覇権国家であった。

教皇のなかにはアルレシアへ十字軍を送る者もあったが軒並み失敗、しつこいときはアルレシアが北海閉鎖をちらつかせ脅しをかけることもあった。
そこへ、ヴロツワフでの戦果。

手を出してはいけない国として、暗黙の了解が取られることとなる。

幸いにも、アルレシアは外国への不干渉を第一としていたため、ある意味で各国の思惑から離れた聖域だった。

そんなアルレシアの強さを間近で見たオランダ。
この頃、ネーデルラント地方の領邦はだんだんと統合が始まっており、ホラント伯としてのオランダも力をつけようと努力しているところだった。

アルレシアはベルギーと数百年前から貿易しており、アルレシアとの貿易ルートを確立させられれば経済的利益がある。
ぶっちゃけヴロツワフでの恐ろしいイメージしかないが、オランダは勇気を振り絞ってアルレシアのもとへ訪れることにした。




アルレシア王国、王都レガリスタード。人口23万人、ヨーロッパ最大の都市である。

あまりの人混みに気圧されながらも、オランダは目付きも悪くアルレシアのいる中心部へ急ぐ。
その目付きが原因だったのだろう、昼間から酔っ払った男が「なにガン飛ばしてんだ!」と難癖をつけてきた。
大都市だけあって、治安もよくない。


「…なんや」

「ガキのくせに生意気なんじゃねえの!?」


胸ぐらを掴む男を睨むが、逆効果。
すぐに男は怒り、拳を振り上げた。
殴られる、そう思った瞬間、男は突き飛ばされた。


「俺の目の前でいい度胸だな?」

「なっ、アルレシア様…」


なんと、現れたのはアルレシア。
どうやらオランダを助けてくれたようだった。


「3秒以内に去れ」

「はっ、はいぃ…!」


脱兎のごとく、男は駆け出す。


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