革命戦争: 空前絶後の大遷都
スウェーデンがロシアに敗れて大陸封鎖に賛成すると、もはや大陸に残された反フランス国家はポルトガルだけとなっていた。
先にフランスと同盟していたスペインはフランスとともにポルトガルを誘うも、ポルトガルは塩対応だった。
「案外悪ないで、ポルトガル」
「そうだよ、スペインからロシアまでみーんな仲間だよ?」
「普通に無理やわ〜」
そんなポルトガルにフランスとスペインは結託し、1807年11月のうちにポルトガルへと侵攻した。国土の分割案まで立て、この没落した小さな国家を制圧するのはすぐだと思われた。
「俺が力貸してやってもいいぞ」
「え、あんさん陸軍弱いやん」
「うぐ」
イギリスはそんなポルトガルに手を差し伸べるが、弱い陸軍に半端に戦われても国土が疲弊するだけだと判断したポルトガルは、それを断った。代わりにポルトガルは別のものを要求する。
「でもイギリス、海軍は貸してくれへん?」
「なんで海軍なんだ?」
「遷都するわ」
「は?どこに」
「リオデジャネイロ」
「……はぁあああ!?!?」
フランス支配が嫌すぎるポルトガル、なんとリオデジャネイロへと遷都することを決定したのである。
空前絶後の大遷都とも称されるこのリオジャネイロ遷都は、後にも先にも、欧州以外に首都を移した欧州国家の唯一の例となった。
イギリス海軍に守られて、総勢1万人が王室とともにリスボンから大西洋を横断してリオデジャネイロに渡った。これはブラジルの独立を促進することとなり、結果的にポルトガルを混乱と没落に陥れる側面もあったが、間違いなくポルトガル国民にとっての誇りでもある出来事だった。
不景気ながら、一応イギリスとともにリスボンへやって来たアルレシアは、街に残ったポルトガルに首を傾げる。
「お前は行かねぇの?」
「行かへんよ。俺が守るべきモンはここにあるさかい」
その表情は笑っているが、目つきは確かにかつて世界を股に掛けた者の目だった。そしてその視線の先には、迫りくるフランス・スペイン軍を前にポルトガル王国の国土と国民を守ろうとする軍がおり、また、安全なところへ移動する人々がいた。
ポルトガルはその後、ナポレオンが流刑になるまでずっとフランスに対して徹底抗戦を続けた。ときには焦土作戦すら行い、それはロシアも模倣するほどの効果をもたらした。
また、スペインは1808年から傀儡王がナポレオンの親族から立ち、それに反発する勢力によって内戦状態となった。それと合わさり、これらの戦いを半島戦争といい、フランスを著しく弱体化させるほどに泥沼化した。
***
一方、不景気によって急激に体調が悪化していたアルレシアは、何度か半島戦争へ派兵したものの、もう継戦能力にすら支障をきたそうとしていた。貿易国家なのだから当たり前である。
家で寝込んでいると、密貿易をしているオランダがやってくる。実はオランダも、フランスの衛星国ながら大陸封鎖令を一度拒否している。そろそろ密貿易もバレそうだった。
「大丈夫かアルレ」
「…ぶっちゃけ、あんま大丈夫じゃない…」
ベッドで高熱に喘ぐアルレシアを、オランダは心配そうに見つめた。オランダとて大陸封鎖によってかなりの損害を受けているため、そろそろ体調が悪くなるはずだ。
「…すまんアルレ、俺ももう…」
「分かってる…今までオランダがずっとそばにいてくれたから、俺はたとえイギリスすらすら講和しても、戦い続けることができた。謝ることじゃない」
オランダはそれを聞くと、アルレシアの頬に手を滑らせた。オランダの低い体温が心地よく、それにすり寄ると、頭を撫でられる。
「…どんなにつらいときも、俺がおるさけ。ずっと一緒やざ。心配せんでええ」
「…オランダ、」
「悲しいことも、つらいことも…一緒に乗り越えよっさ」
「…そうだな、オランダとなら、俺も大丈夫だと思える」
たとえどんなに苦しくても、国としてではなく、個人として、オランダの側にいるだけで救われる。ともにいるだけで、どんな悲しくてつらいことも乗り越えられる。
オランダと手を繋ぎ、まるで祈るように互いに額をつける。
きっとこれからも待ち受けるだろう悲劇の数々を、国として、アルレシアたちは受け入れる。その覚悟を決めるのに、隣にオランダがいることは、とても幸せなことだと思えた。