2
「オランダ!!」
「っ、アルレ…っ!!!」
アルレシアはロッテルダム港湾とスヘフェニンゲンを占領して、陸軍をロッテルダムやハーグ市街地に放つと、一気にフランス勢力を駆逐した。その間にアルレシアはハーグ郊外のデルフトでオランダを見つけ、デルフト新教会の前の広い道で合流する。
手を振って走っていけば、オランダもこちらに駆けより、そして、勢いよくアルレシアを抱き締めた。
硬い胸板に鼻が当たって少し痛むし、強く抱き締められて少し苦しいが、まったく気にならない。
「アルレ、アルレっ…!!」
「…もう大丈夫だから。俺も、お前も」
「怪我はあらへんか、体調は」
「問題ないって」
オランダはなおもアルレシアを心配する。もう条件反射だろう。ボロボロなのはオランダの方なのに、オランダはいつだってアルレシアのことばかりだった。それは、あのブレダ要塞攻防戦から変わらない。
「…ずっと、会いたかった」
「俺もだよ。ま、5年も離れてねえけど」
「時間やない、距離やざ」
「…そうだな」
会わないことと会えないことは、たとえ同じ時間であってもまったく違う。会えないという心理的負担が、2人をずっと苦しめて来た。それももう、終わりだ。
オランダはアルレシアの頬に手を滑らせ、顎を優しく掬う。それに従って上を向けば、オランダの全力で愛しいという瞳を目が合った。
そして、静かにオランダの顔が近づき、2人の唇が重なる。
その途端、新教会の鐘が鳴り響いた。街の解放を祝福するものだ。市民が解放を喜び、フランスの国旗が降ろされる。
「…オランダ、俺はもう少し戦う」
「俺も行くで」
「言うと思った。一緒に行こう、ベルギーたちを助けないと」
2人は静謐ともいえる空気を払しょくすると、北海の商魂たくましいいつもの顔つきになった。もうすでに、復興と戦後処理が視野に入っている。これから大規模に金が動くのだ、稼がねばならない。
アルレシアは、僅かとはいえオランダ兵とともにブレダ、ドルドレヒトなどを解放した。
海軍は続けてブルージュに上陸し、ヘントからブリュッセルへ向かう。アルレシアたちもロッテルダムからアントウェルペンやリエージュ、マーストリヒトへ向かい、それぞれの方向からブリュッセルに至った。
そこからルーヴァン、ナミュール、シャルルロワと進み、ルクセンブルク市内に入る。これによって、ついにネーデルラント全域が解放されることになった。
「アルレ兄ちゃん!お兄ちゃん!」
「兄さんたち、ご無事で何よりです…!」
元気そうな2人に安心し、アルレシアは飛びついてきたベルギーとルクセンブルクによろめき、オランダに支えられる。ベネルクス三兄弟に挟まれて、ようやく彼らの居場所がきちんと地図に国境線とともに復活するのだと思えば、アルレシアは頑張った甲斐があるというものだ。
アルレシアによって概ね解放と制圧が行われた都市間を同盟軍が移動していき、まっすぐにパリへと向かう。
西からはイギリスとスペイン、ポルトガルの連合軍がピレネー山脈を越えて侵入し、各都市を制圧しながらパリへとやって来た。ナポレオンやその支持勢力は国内の逃げ場をなくし、降伏するほかなくなってしまう。
1814年3月末、タレーランを中心とするフランス臨時政府がナポレオンの廃位を決定すると、ナポレオンはついにエルバ島へと追放され、フランスは陥落。
その後、百日天下をとったナポレオンに対して最後となる第七次対仏大同盟が結成され、アルレシアもネーデルラント駐留軍がイギリスの統制下でオランダと連合する形で戦う。このワーテルローの戦いでもって、一連の大戦争はすべて終結するのであった。