ウィーン講和: 山積する難題
会議はまず、全員での食事から始まった。食事中はとりあえずいつも通りの面々だったが、すでに冒頭で互いの利害が激しくぶつかることを予想していたため、どこか腹を探るようだった。
アルレシアとオランダは、ともにポーカーフェイスで淡々と食事をとり、たまに個人的な会話をするに留めていた。
昼食会も終わると、いよいよ本番だ。
大きな机は取り払われ、さほど大きくはない円卓が設けられる。オーストリアやイギリスなど大国がその席につき、周りに小国たちが立つ形で会議が開始となった。
「さて坊っちゃん、最初の議題はどうする?」
「先ほど、書記官たちに、各国の要求をリスト化して全員分写させました。まずはそれを」
オーストリアの合図で、国たちに羊皮紙が配られた。丁寧な文字で書かれたフランス語だ。
それぞれからそれぞれに対する要求や提案が一覧になっており、まずは各国とも自分に向けられたものを探す。
アルレシアはさっと目で追う。触らぬ神にではないが、あまり触れようとしていないのが分かる。当然だ、アルレシアはすべての大同盟に参加して戦っているし、個別の戦争もしていない。北海封鎖は確かに打撃を与えたが、その後の大陸封鎖令の方が各国にはダメージとなっているため、その点も追及はなかった。
目を通し終わったプロイセンは、他の熟読中の国を無視して勝手に喋りだした。
「ざっと見る限り、ネーデルラント再編問題、ポーランド分割問題、北欧領土問題、ドイツ再編問題、北イタリア再編問題、海外領土問題、そしてアルレシア通商協定問題ってな感じに大別できるな」
領土に関する講和会議はこれまで何度も行ってきた。そのため、各国は経験があるので戦略も立てやすい。
しかし、アルレシアの通商協定要求はあまりにハードルが高く、その交渉は前代未聞のものになる。プロイセンすら、苦々しげに最後を口にした。
アルレシアが各国に突きつけた要求、それは、関税の大幅な削減、指定した都市の自由化、国土の自由通行、そして損害が生じた際の賠償である。損害賠償は、損害が生じてから賠償金を払うか、事前に損害が出ないようアルレシア商人の武装のための資金援助するか、アルレシア陸軍の商人への同行を許可するかというものだった。
「…まずは、各国の主張や提案を掘り下げましょう。どういう意図なのか」
広範な協議内容は、プロイセンが大別はしたものの、それぞれ絡み合っている。勢力均衡、つまり列強のバランスを調整する必要があるためだ。やみくもに始める前に、オーストリアは各国の思惑を整理していく方向で切り出した。
「まずはプロイセン。主に領土の主張ですね。まったく、こんな無茶認められるものですか…!」
「そうよそうよ!」
「本性出したな坊っちゃん。てか外野うるせえぞ、主権ないやつは黙ってろ!」
プロイセンの主張を見て、オーストリアはぷんすことし始める。その後ろで、ハンガリーが騒いだ。
「北ドイツの解放に1番尽力してやったのは俺様だ。両メクレンブルクを除くマグデブルク以北のエルベ川流域、およびハノーファー選帝侯領とオルデンブルク、ヴェストファーレン全域、ラインラントの併合…当然だろ」
「北ドイツを支配しようなど!東方辺境の騎士団風情が…!」
「俺も反対だな。ハノーファーは依然として俺の同君連合だ。大英帝国の王冠を愚弄してんのか?」
どや顔で言うプロイセンに対して、オーストリアとイギリスがこめかみを震わせた。
プロイセンの要求は、アンハルト地方の小国家を含むエルベ川流域と、北西ドイツの大国ハノーファー、デンマーク王室などを輩出した名門オルデンブルク、ミュンスターやケルンなどのラインラントやヴェストファーレンを併合することだった。
メクレンブルクはメクレンブルク=シュヴェリーンとメクレンブルク=シュトレーリッツに分かれるが、こちらは家柄の格が違いすぎる。そんなタブーを犯してまで領有するほど、豊かな国でもなかった。
オーストリアからすれば、ドイツ地域の統一を目論む試み透けて見えており到底信用できない。イギリスも、王室の故郷であるハノーファーを併合されるのは面子が許さない。