神野の悪夢/後編−4


焦凍たちの体が固まって動けない中、倉庫だった廃墟には液体の音とともに何人かの声が相次いで響いた。


「うえぇっ…!」

「んっじゃこりゃあ…!」

「悪いね、爆豪君、轟灯水君」


ワープか何かだろう、ぎりぎり残った壁によって見えてはいないが、あの男の前に灯水たちが現れたのが分かった。聞いたことのある敵の声もするから、どこかで展開されていたオールマイトたちの作戦は失敗したらしい。敵連合も灯水たちも、この場に集められてしまった。

ヒーローたちはベストジーニストが咄嗟に庇ったようだったが声がしないため重傷だろうし、そのジーニストも男によって沈黙させられた。
今この場で力のある者はいないのだ。そう分かっていても、体が恐怖で動かない。


「また失敗したね弔。でも決してめげてはいけないよ。またやり直せばいい。こうして仲間も取り戻した。この子たちもね…君が「大切なコマ」だと考え判断したからだ。何度でもやり直せ、そのために僕がいるんだよ。すべては、君のためにある」


大切なコマ。それはつまり、灯水たちを今後も連れまわすということだ。このままでは、再び灯水たちは敵の手に渡って、今度こそ連れ戻す機会がなくなってしまう。

そうは、させない。灯水は必ず、焦凍が連れ戻すのだ。でなければ自分は―――!!


そう思って足を踏み出そうとした瞬間、飯田が焦凍と緑谷をまとめて押さえつけた。切島は八百万に抑えられている。2人の目は、同行を決めてくれたときから変わらない。焦凍たちを守ろうという決意に満ちていた。


「…やはり、来てるな」


すると、そんな声が響いた。まさかバレたか。この期に及んで体の内側が冷えるような感覚がした直後、骨と骨がぶつかる重い音が響き渡った。直後に怒りに満ちた声が轟く。


「すべて返してもらうぞ、オール・フォー・ワン!!」

「また僕を殺すか、オールマイト」



***



空から隕石のようにやって来たオールマイトは、マスクの男に拳を繰り出すも、男はそれを素手で弾き飛ばした。その衝撃によって爆風が吹き、灯水と爆豪は後ろに飛ばされる。敵連合も後方で飛んでいくのが見えた。

間違いない、この男が先生と呼ばれていた男で、この連合の黒幕だ。
隣で地面に伏せる爆豪と、氷の壁で体勢を立て直す灯水は、その威圧感と実力差に震えた。


「5年前と同じ過ちは犯さん、オール・フォー・ワン」


男の本名はオール・フォー・ワンというらしい。男に向かって、オールマイトは全身に力をみなぎらせていた。以前会敵したことがあるということは、オールマイトが倒し損ねた敵ということだ。


「爆豪少年、轟少年兄を取り返す!そして貴様は今度こそ刑務所にぶち込む!貴様の操る敵連合もろともな!!」

「それは、やることが多くて大変だな、お互いに」


そう男が言ったとたん、その左腕が膨らむ。灯水は咄嗟に灯水と爆豪の前に分厚い氷の壁を作る。
その直後、オールマイトは男の腕から放たれた衝撃波によって飛ばされた。その衝撃波はさらに地面を抉ると、破壊された街とは別の方向に向かってビルを薙ぎ倒していく。それなりに大きいオフィスビル群がおもちゃのようにバラバラになり、オールマイトが貫通した真ん中付近でビルが折れて傾いていく。土煙とガラス片や書類が宙に舞い、さらに悲鳴が響いた。
氷の壁はほとんど残っていないが、なんとか飛ばされずに灯水たちは済んだ。


「オールマイト!!」

「心配しなくてもあの程度じゃ死なないよ」


灯水に庇われた文句を言うかと思ったが、爆豪はオールマイトの方を心配していた。それに対して男は冷静に言うと、死柄木の方を見る。


「だから、ここは逃げろ弔、その子たちを連れて」


男は指から黒い糸のような幾何学模様を出すと、黒霧に突き立てた。まだ気絶しているようだ。


「ちょっと!あなた!彼やられて気絶してんのよ!?よくわかんないけどワープが使えるならあなたが逃がしてちょうだいよ!」

「僕のはまだ出来立てでねマグネ」


マグネというオカマはそう言うが、男のあの液体ワープは制約が多いのだという。


「個性強制発動!さあ行け」

「先生は…」


男はどうやら個性を複数持っているらしい。先ほどから系統の違う個性をどんどん使っている。黒霧は強制的に個性が発動し、ワープゲートが出現する。
そこへ、飛ばされたオールマイトが一瞬で戻って来た。


「逃がさん!」

「考えろ弔、君はまだまだ成長できるんだ」


オールマイトの拳を、男は簡単に受け止めた。また爆風が吹き付け、弔はゲートの前にへたり込む。まるで親子だ。


「行こう死柄木!あのパイプ仮面がオールマイトを食い止めてくれている間に!」


死柄木に代わって先に撤退の準備を始めたのはほかの敵で、ハットの敵コンプレスが荼毘に触れて球体に凝縮していた。


「…コマ持ってよ」


コンプレス、そして他のすべての敵がこちらに立ち塞がる。どうやら、灯水たちも連れて行くという男の指示は忠実に守るらしい。


120/214
prev next
back
表紙に戻る