神野の悪夢/後編−5



「めんっどくせー…!」


敵は6名、対してこちらは2名。いち早く灯水たちが脱出できなければ、オールマイトの足を引っ張ることになる。
敵の個性が分かっている者を考えると、コンプレスだけは絶対に近づけてはならない。だがヤツは機動力が高い。
一方、死柄木は近接だし、トカゲと女子高生も近距離を好みそうだ。マグネはまったく未知数。正直、動ける者の中で個性が分かっているのが死柄木とコンプレスだけというのは分が悪い。だがとにもかくにもこちらは近接戦を避けて距離を取ることがベストだ。


「爆豪君、最終目標分かってるよね」

「てめぇが凍らせて逃げる」

「そう。俺が合わせてやるから」

「言われんでもそーするわアホ」


小声で作戦会議をすぐに終わらせる。こちらは逃げることがベストで、2人とも空中を素早く移動することには慣れている。空中戦を体育祭でやりあった仲だ。
相手を凍らせて動けなくしたところで逃げるのが良い。爆豪の攻撃で確実に仕留められるようにしてもらい、こちらは距離をかせぐとともにここぞというところで氷結を放つ。

方向性が固まったところで、女子高生がナイフを、全身タイツのトゥワイスが鞭のようなものを持って駆け寄って来た。同時にコンプレスも迫る。
爆豪はコンプレスに向かって手を向けたため、灯水は女子高生とトゥワイスに熱湯をぶちまける。氷結は警戒されるため控えたい。爆豪の爆破が決まったコンプレスは呻いてよろけ、熱湯がかかったトゥワイスは「つめてぇ!」と叫んでのけぞった。女子高生は俊敏に避ける。

それを見たオールマイトがこちらに向かおうとしてくれるも、男に阻まれて地面に叩きつけられた。やはり、足枷になってしまっているのだ。


「くっそ、」


焦る気持ちはあるが、コンプレスを近づけないように、水を鞭のようにしならせて足を払う。爆豪の方をちらりと見ると、心得たようにコンプレス、そして近くにいたトカゲとトゥワイスに向かって思い切り爆破をしかけた。吹き飛ばされる3人に向かって氷結を放つと、それが届く前にマグネが個性を発動した。
突然、トカゲたちが女子高生の方に飛ばされ、氷結は外れる。見ると、男たちにS、女子高生にNと浮かんでいた。どうやら磁力を発生させる力のようだ。女子高生に引き寄せることで移動させたのだ。

だがその瞬間、灯水と爆豪の間に距離が開いた。それなりのスペースができたため動こうと思った直後、近くの壁が突然吹き飛んだ。

敵かと思って慌ててそちらに視線を移すと、壊れた壁から氷結がジャンプ台のように出現し、その上を滑って3人が飛び出した。

レシプロを発動している飯田、エネルギーを纏っている緑谷、そしてその2人に担がれているのは切島だ。腕が硬化しており、壁をぶち抜いたのは切島だろう。この氷結は、焦凍だ。
まさかここまでピンポイントで救けに来たというのだろうか。飯田も緑谷も焦凍も、ステインの件で怒られたばかりなのに。

A組のメンバーが来てくれたことに嬉しさが沸き上がる。しかし同時に、自分が行っていいのかと逡巡する。あの合宿の夜が浮かんだからだ。


「来い!!!」


だが、切島は両手をこちらに突き出した。爆豪と、灯水の分だ。それを見たら、もう考えるまでもなかった。

爆豪は爆破によって飛び上がり、灯水は蒸気によって空へ向かう。死柄木の手が伸びるも、それはこちらへは届かなかった。


「バカかよ…!」


爆豪はそう言いながら切島の左手に掴まった。言葉のわりに、爆豪の声音は柔らかかった。
そして灯水は切島の右手を掴む。がっしりとした手に包まれ、蒸気で凍えていた左手がすぐに温まるようだった。


「爆豪君、俺の合図に合わせ…」

「てめぇが俺に合わせろや!!」

「張り合うなこんなときにィ!」


飯田のバーストに合わせるよう言うと爆豪は拒否する。切島が突っ込むと、まるでいつものA組のようだった。


「…俺がフォローする、大丈夫だよ」


灯水は両足と右手によってバランスと取って蒸気を噴出した。これなら男4人分でも、飯田や爆豪の推進力と合わせて飛んだまま逃げられる。

下ではマグネが反発によってコンプレスを打ち出そうとしている。このまま届いてしまえば、かなりまずい。コンプレスの個性を解けるのもコンプレスだけなのだから。
そしてコンプレスは打ち出される。まずい、と緊張した瞬間、突然背後に巨体が出現した。コンプレスはそれに弾かれ地面に落下する。

意識をもうろうとさせながら巨大化したMtレディだ。


「救出…優先…行って、バカガキ…!」


さらにその後ろでもう一発撃ち出そうとするマグネたちを気絶させているのはグラントリノだ。続々と他のヒーローたちも駆けつけている。もう大丈夫だろう。灯水たちも、オールマイトも。


「着陸するぞ!」


飯田が叫ぶと、足場の悪い瓦礫の山が迫る。爆豪が爆破で勢いを殺し、灯水は最大限蒸気によって一同をふんわりと着地させる。
なんとか足が地面に着くと、背後から相変わらずすさまじい爆音が聞こえる。早くさらにここから先へ離れなければならない。


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