神野の悪夢/後編−7




「「勝てや、オールマイトおおおお!!!」」


叫ぶ緑谷と爆豪。切島や飯田もテレビに向かって届けとばかりに叫んでいる。灯水は口がカラカラで叫ぶことこそできなかったけれど。


「…頑張れ、オールマイト…!」


声援に答えるように腕にエネルギーを貯めるオールマイトに、言葉を送っていた。

男も応戦するべく腕に力を籠めるが、妨害するようにエンデヴァー、エッジショット、シンリンカムイが加勢して、虎が背後の女性を救け出す。
そうしたヒーローたちを、男は衝撃波を地面に放って蹴散らす。その反動で浮き上がると、空中からオールマイトを睥睨した。
その右腕は何本の手や金属が覆っているまがまがしいもので、男はそれを地上のオールマイトに叩きつけた。
その瞬間、大爆発がその区画を丸ごと吹き飛ばした。テレビよりも早く轟音が駅前に響いてきて、夜空に爆炎が立ち上る。

分厚い煙によって2人は見なくなったが、相次いで煙は揺れて晴れていく。おそらく2人があの中で殴り合っているのだ。それが分かった人々の応援の声がさらに大きくなる。キャスターですら、報道そっちのけで声援を送っているが、その音量をかき消すように群衆の応援が街に広がっていた。

そして一際大きい衝撃波とともに煙が完全に晴れ、その中にオールマイトと男が見える。


オールマイトが、右腕を大きく振りかぶっているところだった。それは思い切り男の顔面に入る。男は頭から地面に叩きつけられ、再び爆風が巻き起こり轟音が轟く。だが、断続的に風圧が続いているために煙は自然と晴れていった。

ヘリは衝撃波によって揺れて画面も揺れるが、画面が安定する頃には煙が消えてオールマイトの姿が明瞭になる。
大きく衝撃波を物語るかのように同心円状に広がる地面のクレーター。その中心にいるオールマイトは、全身ボロボロで。

それでも、突然元の筋骨隆々の姿に戻ったかと思うと、その左腕を高く突き上げた。

瞬間、わっと群衆は沸き上がる。人々ももろ手をあげ、中には涙を流し、友人と抱き合い、歓喜の声が木霊する。

それは、紛うことなき平和の象徴の姿であった。



***



駅前の混乱から少し外れて、大通りのコンビニのところで灯水たちは焦凍・八百万と合流することになった。先に着いた灯水たちが待っていると、少し離れたところから大きな声で呼ばれる。


「灯水!!」


その声は間違えることもない、焦凍のものだ。ホストみたいな恰好をしているがよく似合っている。
たった数日しか離れていないが、姿を目にした途端、思い出したように自分が攫われていた不安や恐怖が心に沸き上がってくる。思わず焦凍の方に向かって駆け出すと、焦凍は思い切り灯水を抱きしめた。


「灯水ッ!!灯水、灯水…良かった、無事か…!」

「大丈夫だよ、焦凍…!」


焦凍の肩に顔を埋めるようにして抱き付くと、追いついた八百万と緑谷たちが無事を確認し合う。耳元に心地よい焦凍の低い声に安心する。


「…八百万さんも、ありがとう。救けに来てくれて」

「私も灯水さんたち兄弟に救けられましたもの」


救けた覚えがないので首を傾げるが、そこで緑谷が警察を見つけて声を掛ける。一緒にいたいのはやまやまだが、時間も遅い、電車は動かないので焦凍たちは一時避難所に移動し灯水と爆豪は警察に一度保護されなければならない。

一度、焦凍にぎゅっと手を握られたあと、いったん分かれて灯水と爆豪は驚く警察についていく。その手の温かさが、じわりと残っているように感じられた。

そう、自分は助かったのだ。無事に保護され、生きている。特に怪我もない。

だがよくよく考えてみれば、灯水が抱えていたことは何一つとして解決していない。切島たちと普通に一緒にいたが、この緊急事態が沈静化すればまたあの合宿中のようになるだろう。
荼毘に抉られた心の傷は、より明確に灯水の中で形を成してしまい、いよいよこの痛みも無視できなくなってしまった。

だんだんと冷めていく手を、灯水はじっと見ていた。


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