気付けなかったこと−3


神野区の事件から3日、まだ雄英生徒たちは自宅待機を余儀なくされている。
学校ももろもろの対応に追われているため、ヒーロー科の再開はお盆明けを予定しており、まだ1週間ほど休みだった。焦凍は自由に出られるものの灯水は警察の許可なく家から出られない状態であり、ひたすらトレーニングをしたり課題をやったりという単調な生活にすでに飽きつつあった。
先日の見舞いは炎司の事務所の相棒が送迎してくれたため警察の許可降りたのだが、そう何度もヒーローを呼びつけるのは気が引けることもあって、灯水は自宅待機に甘んじている。

とは言っても、外は灼熱の8月、どうあっても家を出る気ににはなれなかったかもしれない。個性を使って調整しても、日差しばかりは熱いのだ。

そんな中、2人は部屋を掃除して来客の準備をしていた。勉強に使う机を出して飲み物などを準備するくらいだが、灯水は若干緊張している。

何かというと、今日は切島、上鳴、尾白が来ることになっていたからだ。

昨日焦凍に連絡が来て、会いに来てもいいかということを灯水に確かめられた。断る理由もないので頷いたが、遊びにくるとは一言も言わなかったことから、何か真面目な話なのだろう。そこで思い浮かぶのは、攫われる直前、合宿中に言われたことについてだ。
神野区警察署前で話したあの夜に、どんな会話をしたかは焦凍に話してあったため、焦凍が許可したということは彼らは謝りに来るのかもしれない。

別にそこまでする必要はないのに、とも思うのだが、あの事件で救けられたとは言えこの件については何も解決していないため、きちんとけじめをつけるという意味では有難い。やはり、灯水としてもギクシャクしたままではいたくなかった。


***



午後、ついにやって来た3人を迎えた焦凍と灯水は、3人を寝室に通す。冬美と炎司は仕事のため不在だ。
純和風の屋敷が珍しいからか、3人ともキョロキョロとしていた。

3人を机の前に座らせると、その向かい側に焦凍と並んで座る。なんの見合いだ、と思わないでもないのだが、緊張した面持ちの3人に思わずこちらも姿勢を正してしまう。焦凍だけがいつも通りだった。3人のために珍しく起動しているエアコンの音がなければ、室内は居心地の悪い沈黙が痛かっただろう。


「あ、あのさ!」


そして口火を切ったのは切島だった。男らしく潔く、とでも思ったのだろう。勢いよく顔を上げて言うものだから面食らう。


「俺ら、今日は謝りに来たんだ。合宿のとき、灯水に作り笑いやめろとか言って、その、傷つけちまったから…」

「…そうなのかな、とは思った。別に、そんな謝ることじゃ、」

「ちげぇんだ!俺のけじめなんだ。だから、謝らせて欲しい」


切島はまっすぐにこちらを見据えた。意志の強い目に、灯水はゆっくり頷く。いつだって切島はまっすぐで、誠実だ。こうして来てくれたのだから、きちんと受け止めるのが礼儀だと思った。


「俺、灯水ともっと仲良くなりたかった。いつも一歩引いて壁あるように思ってたし、悩み事も話してくれなかったから、もっと、そういう話もしてもらえるような仲になりたくてよ。でも、お前が攫われちまったあと、轟が言ったんだ。灯水が、A組のこと、俺らが思ってるよりずっと好きなんだって…お前のそういうとこ、分からねぇわけじゃなかったのにな」


何を話しているんだと隣を見ると、焦凍は目を逸らす。事実なので仕方ない。灯水は視線を正面に戻した。


「だから、ごめん。もっとお前のこと信じるべきだった。なんていうか、ペースをもっとゆっくりすべきだったんだよな。焦って傷つけるような真似して、本当にごめん」


切島は正座した膝に手をつくと、がばりと頭を下げる。こちらが気にしないように、わりかし早く顔を上げてくれたが、その顔には分かりやすく後悔が浮かんでいた。本当に気にしてくれていたらしい。


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