気付けなかったこと−4




「俺も!俺も切島と同じで、灯水ともっと壁のない関係になりたくて、合宿っていう場だったし、踏み込んだつもりだったんだけど、いろいろ見えてなかったんだな…」


続いて上鳴も口を開いた。切島に代わって話す上鳴は、しだいに俯いていく。いつも明るい上鳴のそのような姿を見たことがなく、灯水は逆に罪悪感すら感じそうになる。


「…俺、実は、あのあとお前のこと疑っちゃったんだ。灯水が敵と繋がってたんじゃないかって。轟に胸倉掴まれて正気に返ったよ」

「焦凍が?」


上鳴がそういう高度なことを考えていたのも少し驚きなのだが、焦凍が手を上げたことも驚きだ。少し気まずそうにしているから、焦凍としても頭に血が上がってしまったと反省しているのだろう。


「灯水が攫われて、俺、お前にもう謝れないんじゃないかって思ったら、罪悪感で押しつぶされそうになって。そんで、それから逃げたくて、あんなこと言っちまったんだと思う。轟のことも、お前のこともまったく考えてない、最低なことだった…言わなくても良かったのかもしれねえけど、俺はダチを疑うあんなことした自分を許せなくて、だから、はっきり伝えることにした。本当に、ごめん」


確かに灯水のあずかり知らぬところでの出来事だったのだから、黙っておくのも手だっただろう。それでもこうして謝っているのは、上鳴のけじめだ。それだけ、上鳴は灯水と仲良くしていたいと思っているのだ。


「俺も謝りたいんだ。俺は切島たちがあの話をしてたとき、本当は灯水だって慣れてくれれば結構表情豊かなんだって知ってたんだ、なのに普段からそうして欲しくて、黙ってた。ごめん」


そして尾白は、あのとき一言も発したなかったがそんなことを気にして謝りに来てくれたらしい。いや、きっと灯水にとってかなり仲が良いメンバーの1人だからこそ気にしてくれているのだ。実際、灯水は体育祭などで尾白にはいろんな感情を見せた気がする。

言いづらいことだろうに、わざわざ家まで来て、上鳴や尾白は言わなくてもバレなかったことまではっきり言ってくれた。誠実な彼らだからこそ、灯水もきちんと言葉を尽くしたかった。


「…ありがとう、謝ってくれて。俺も、皆にきちんと伝えたいことがあるんだ。俺の話。ずっと、悩んでたこと。もしかしたら、皆の罪悪感を強めることになっちゃうかもしれないけど、俺はそういうことのために話したいんじゃない。ただ、俺のことを知って欲しいから話す。それでよければ、聞いてくれるかな」


隣の焦凍は心配そうにしつつも「俺は構わない」と事前に言ってくれたし、珍しい言い方をする灯水に3人の姿勢も伸びる。


「聞かせてくれ」


切島が言うと、上鳴と尾白も頷く。それに頷き返すと、自動的に話に含まれてしまう焦凍に軽く笑いかけてから、初めて、本当の自己紹介のようなものをした。


生まれてからのこと、個性婚、発言した個性と灯水が出来損ない扱いされたこと、そして一度存在意義を見失った灯水にとって焦凍の兄であることが唯一残されたものだったこと。
そうして生きてきたために、体育祭以降は再び自分を見失い、ずっと出口のない悩みの中にあり、その中で切島たちに作り笑いを指摘されたこと。
話すうちにやはり3人の顔は強張って、特に切島と上鳴は自分たちが思っていた以上に打撃のある言葉になってしまっていたのだと知ってショックすら受けていた。


「でも、焦凍が気付かせてくれた。俺にはちゃんと、A組のことが好きだって自分自身の気持ちがちゃんとあって、それが俺の存在証明だって。そう考えると、俺は今まで気づいてなかっただけなんだって分かった。これは、俺が変わらないといけない問題だ。どう変わればいいのか分からないけど、俺、これからは今まで人付き合いするうえで色々考えてたことを、一度まったく考えないでいこうと思う」


こればかりは灯水しだいだ。まずは、今までのリセットという意味で、打算的な思考をすべて捨ててみることにした。もっと肩の力を抜いた感じというか、ようは家にいるときのようなものだ。あとは、林間合宿冒頭で極度の空腹だったときがいわゆる「素」に近いだろう。


「てことで、これ見て」


そういうわけなので、まずは灯水はずっと誰かに見て欲しかったものを見てもらうことにした。氷で作った、エンデヴァー人形である。机に突然現れた20センチほどの氷像に、3人も、焦凍も呆気にとられる。


「体育祭のときに訓練の一環で作れるようになったエンデヴァー人形。すごいよくできてると思わない?ずっと誰かに見せたかったんだよね」

「え…」


呆ける上鳴。灯水は人形を持って動かすと、焦凍の方に向けた。


「焦凍ォ!」

「マジやめろ、ほんとやめろよ、やめてくれ」

「五七五ォ!」

「…、ぶはっ!!!」


そして、耐え切れないといったように上鳴は噴き出した。つられて切島も「ぶふっ!!」と噴き出し、尾白も無言で震え始めた。


「ちょ、ま、お前それ、ヤバイってマジで!!」

「ひーー!!灯水も轟の兄だな、なんだよその天然ボケのポテンシャル…!」

「…、…っ、」

「あとこの写メ」


炎司の髭の炎がハートを描く写真を見せると、ついに3人は呼吸困難に陥ってせき込むまで笑い転げた。一転してわいわいと騒ぐ灯水と3人に、焦凍は呆れたようにしながら薄く笑い、そしてエンデヴァー人形を溶かした。


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