気付けなかったこと−8
お盆が明け、いよいよ入寮の日がやってきた。焦凍と2人でいつも通り登校するが、これが入寮前最後の登校になるのだ。感慨深いような気もする。
厳しい暑さの下を雄英までやってくると、本校舎の裏手に回る。
「うわ…マジか…」
「…さすが雄英、だな」
本校舎の裏手には、もともと森が広がっていた。そこを切り開いて、すべてのクラスに一つずつ建物が宛がわれていた。建物は洋風のおしゃれで大きな建築で、地上部は5階建てである。それが30クラス以上にわたって列をなしているのだ、軽いニュータウンである。さすが、演習のために市街地を一区画再現するだけある。
その中のハイツアライアンスという建物がA組の暮らす寮となる。その前に集合することになっているので足を進めると、すでに何人か集まっていた。
「おはよ」
「あっ、灯水君!!」
声をかけると、真っ先に麗日が振り反って手を振る。隣の蛙吹や、八百万、常闇、砂藤、口田、障子も手を振ってくれた。飯田もきちんと立っていて「おはよう!」と機械のような仕草で挨拶してくれた。焦凍も後ろで手を振り返すが、やはり大半のメンバーは合宿以来に会うためどこか新鮮だ。
そうやって再会の喜びを口にしながら後から合流してくるメンバーとも話していると、時間通りに全員集合し、相澤が全員の前に立った。
「とりあえず1年A組、無事にまた集まれて何よりだ」
合宿では生徒たちも軽傷を負ったり意識不明になったりと被害を受けたため、雄英に対する信頼という意味では全寮制も賛否があっただろう。
「さて…!これから寮について説明するが、その前にひとつ。当面は、合宿で取る予定だった仮免の取得に向けて動いていく」
手をパンをひとつ叩いて、相澤は話し始めた。切島たちが「そういやあったなそんな話」とざわつくが、相澤はいつもの眼光によって黙らせず、「大事な話だ、いいか」という静かな口調を維持した。それは威圧感を持っていて、自然と全員が黙る。
「轟、切島、緑谷、八百万、飯田。この5人はあの晩あの場所へ、爆豪・轟兄救出に赴いた」
峰田の「え…」という声のほか、息を飲む音が響き、驚き、愕然とし、顔を歪め、冷静に凪いだ顔をする者など多様な反応を示す。どうやらA組は皆あの焦凍たちの行動を聞いていたようだ。
「その様子だと行く素振りは、皆も把握していたわけだ。色々棚上げした上で言わせてもらうよ」
襲撃を防げなかったことや生徒を守れなかった責任を置いておいて、指導する立場の大人として相澤は語る。
「オールマイトの引退がなけりゃ俺は、爆豪、轟兄、耳郎、葉隠以外全員除籍処分にしてる」
全員の痛いほどの沈黙が落ちて、ザアという木々の揺れる音がやたらと響く。
攫われた爆豪と灯水、そして意識を失っていた耳郎と葉隠以外のこの件に関わっていたA組全員だ。相澤が言うには、オールマイトが引退して社会が混乱し、敵連合の出方が分からない以上、雄英から人を追い出すわけにはいかないからという外的理由だった。
「行った5人はもちろん、把握しながら止められなかった12人も、理由はどうあれ俺たちの信頼を裏切ったことには変わりない。正規の手続きを踏み正規の活躍をして、俺たちの信頼を取り戻してくれるとありがたい」
低く淡々とした声で話し終えた相澤は、くるりと踵を返して建物へ向かう。
「以上、さっ、中に入るぞ元気に行こう」
除籍かもしれなかった宣告を受けた者たち、特にあの5人を中心に空気はどんよりと重い。誰も動けないなか、突然爆豪が動いた。
「来い」
「え?何、やだ」
そして上鳴を建物近くの茂みに連れ込むと、茂みからいきなり大量の放電が起こった。明度差でこちらが暗くなるほどの電圧で電気が空中に放たれると、茂みから上鳴が出てきた。
「うえ〜〜〜い……」
なぜか親指を立てて、顔の輪郭と全体的な作画が変わっている。「バフォッ」という耳郎の噴き出す声をきっかけに、上鳴のアホ面にじわじわと笑いが広がっていく。初めてこんな至近距離で上鳴のこの顔を見た灯水も、「ぶふっ」と思わず噴き出す。わりとイケメンなのにこの扱いだ。
さらに爆豪は、茂みから出ると切島に札束を突き出した。
「え、こわ、何、カツアゲ!?」
「ちげぇ、俺が下した金だ!いつまでもしみったれられっと、こっちも気分わりぃんだ。いつもみてーにバカ晒せや」
どうやら爆豪なりに、クラスの雰囲気を良くしようとしてくれたらしい。上鳴のアホ面にいよいよ笑いも高まっていく。
「切島、お前ら救けにいくとき暗視鏡買ったんだよ。5万の」
「5万!?それでか…」
焦凍がそっと教えてくれた。爆豪はきっちりとその金を返したらしい。一緒に攫われた灯水にも相談してくれれば割り勘したのだが、今から声かけてもすげなく断られるだろう。
「皆!すまねぇ…!詫びにもなんねぇけど、今夜はこの金で焼肉だ!」
切島もその意図をくみ取り、そう言うとクラスはやっと元の明るい雰囲気に戻った。相澤も何も言わずにA組が玄関まで上がってくるのを待ってくれている。盛り上げ担当の切島や芦戸が騒ぎながら階段を上り始めれば他の生徒も続き、ようやく入寮だ。