新たな双子のかたち−4


上鳴に礼を言って部屋を出ると、焦凍の部屋に行って直接聞こうと覚悟を決める。気恥ずかしいが、こればかりは聞かないと分からない。
そう思っていると、その当の本人の声が響いた。


「灯水?」

「あれ、焦凍。どうしたの?」


なんとちょうど焦凍が廊下に立っていた。少しびっくりしたが、それよりも焦凍の顔が険しいことに更に驚く。苛立っているようだ。


「え、ほんとにどうしたの」

「…お前こそ、上鳴の部屋で何してたんだ」

「何って…ちょっと相談」

「俺じゃなくて上鳴に?」


焦凍の顔は怖いくらいで、そのままズンズンと迫ってくるものだから、思わず後ずさった。それをものともせず、焦凍は強く灯水の手を掴んだ。痛みが走って肩が震えた。


「え、ちょっ、」

「…俺の部屋来い」


焦凍は低い声で言うなり、灯水の手を引っ張っていく。まったく灯水のことを考えていない歩調と掴む手の強さに、灯水は恐怖心が沸き上がる。いったい何のつもりなのか。

エレベーターに乗って5階に上ると、手はそのままにまた歩き出し、焦凍の和室に連れ込まれる。
スリッパも脱ぎ切っていないうちに、焦凍は灯水を畳に上げると布団の上に引き倒した。


「う、わっ!」


尻から布団に倒れると、焦凍はその上から覆いかぶさるようにのしかかり、完全に灯水を仰向けに押し倒した。
こちらを至近距離で見下ろす焦凍の端正な顔が、今は怖い。


「…お前、上鳴のこと好きなのか」

「は…?」

「どうなんだよ」


焦凍はぐっと灯水の肩を押した。痛みが走り、いよいよ恐怖心で体が震えた。焦凍にここまで冷たい雰囲気を向けられたことはなかった。


「しょ、うと…!ね、なに、マジで…!」


じわりと目に涙すら浮かんだところで、焦凍はハッとする。肩を押す手の力が抜けて、その目の剣呑さが消えていく。


「あ…わり……ごめん、灯水、俺、」


呆然とする焦凍は、今度は逆に自身が痛そうな顔をした。それを見て、灯水の恐怖心は急速に萎んでいき、何とかしないとという気になる。


「焦凍、怒らないからさ、どうしたのか言って。言わなきゃわかんないから」


その頬にそっと手を伸ばすと、焦凍は一気に脱力する。そして、布団に倒れ込んで灯水のことを抱きしめた。その腕に抱き込まれ、灯水は鎖骨あたりに顔を押し付けられた。


「焦凍…?」

「……もし、お前が上鳴のこと好きで、さっきも動揺してたんならどうしようって思った」


ぽつりと言った言葉は、期末試験の帰りに焦凍が言ったことに似ていた。あのときは単なる独占欲かと思ったのだが、そう単純なものではないと今は思う。


「…焦凍はさ、ちょっと変なこと聞くんだけど、」

「なんだ?」

「…俺に対して、こう、ムラムラする?」


シリアスな感じの空気は一転、弛緩した。焦凍は少し無言になってから、体を離して「何言ってんだこいつ」という目で見下ろしてきた。


「するに決まってんだろ。じゃなきゃ一緒に暮らそうとか言わねぇし、上鳴のこと殺したくなったりしねぇ」

「き、決まってんだ…てか上鳴君理不尽…」


こんなことで殺されては浮かばれない。それにしても、直接聞くように言ってくれた上鳴の言う事に従っていてよかった。はっきりと、焦凍は灯水に欲情すると伝えてくれた。


「今だって、灯水がいいって言えば3秒で勃つぞ」

「なっ…」


焦凍はそう言うと、するりと腕を灯水の後ろに回すと灯水の尻を撫でた。厭らしい触り方に、びくりと震える。


「あー可愛い。抱きてぇ。今すぐドロドロにしてぇ」

「ちょ、焦凍、」

「でも灯水はまだ色々分かってねぇだろ。だからずっと我慢してんだ」


はっきり過ぎる直球の言葉に赤面した灯水だったが、焦凍は優しく言うと腕を戻し、灯水の後頭部を撫でる。安心させるような動きだ。


「で、でも…俺たち双子じゃん…」

「そうだな、そこは変わらねぇ。俺はぶっちゃけそんな深く考えないで、ただお前のこと抱きてぇって思うし、お前と一緒にいてぇって思ってる」

「そ、そういうもん…?」

「さぁな。俺にもわかんねぇけど、とりあえず灯水の気持ちに答えが出るまで何もしない。焦る必要もねぇから、ゆっくり考えてくれりゃいい」


焦凍は逃げ道を用意してくれた。ずっと、という言い方からして、かなり前から気持ちを我慢してくれていたらしい。焦らずにいることの方が難しい気もするのだが、まずは何を考えるべきか教えてくれたのだ、自分なりに考えて行こうと思った。


144/214
prev next
back
表紙に戻る