新たな双子のかたち−6




「いいかい?とてつもなくざっくり言うと、無機物は炭素を含んでないもの、有機物は炭素を含んでいるものをいう。そんで、誘電率という数字が高いほど無機物が溶けやすく逆に有機物が溶けにくくなる」

「ほう」

「水と油ってよく言うけど、油という有機物は溶けにくさマックスだから、水には混ざらないわけだ」

「今のところ大丈夫です」

「よし。そんで、水を超臨界水にすると、誘電率はものすごく低くなる。すると逆に、油みたいな有機物は解けて無機物は溶けにくくなる。水と油も混ざるほどの溶けやすさなわけね」


水の誘電率は温度によって著しく変わるそうで、0度の状態が一番誘電率が高くなる。超臨界水は高温高圧なわけだから、誘電率は極端に下がってしまう。それが有機物を溶かす要因なのだという。



「でも金も溶けるって…」

「それは特殊な有機物が溶けて生成された別の物質による作用だね」


超臨界水はその有機物に対する酸化力の強さから、一瞬で有機物を分解する。その際に生成される物質は基本的に二酸化炭素と水だ。しかし、溶かしたものによっては、ハロゲン化水素と広く呼ばれるものを生成する。


「体育祭でのロボットはすごく特殊でね、装甲の表面が特殊な化合物だったんだ。その有機部分を溶かしたときに何かしらのハロゲン化水素が生成されて、それが有機物である基盤部分に至る金属を溶かしたあと、超臨界水本体が有機物である基盤部分や色んなコードとかを溶かして機能停止したんだろう」

「…つまり?」

「単純な金属相手には役立たないわりに人に使うと大惨事」


なるほど、と灯水は納得した。ステインとの戦いで包丁を溶かすことができたのは、恐らく手に付けていた手袋が溶けて同様の現象が起きたからだろう。先端の尖った場所だけが溶ければ、ナイフが刺さることもない。


「一応、亜臨界水っていうのもあって、気体寄りのが亜臨界水1、液体寄りのが亜臨界水2っていうんだけど、こっちも同様に人に使うと警察に引き渡す前に病院送り、下手すりゃその場で即死だ」

「じゃあ、超臨界水を攻撃として使うのは危険なんですね?」

「うん、でも拘束されても一瞬で溶かせるし、コンクリートとかも溶かせる。というか、純粋な無機化合物でなければ何でも溶かせるよ。そういう意味では普通に必殺技だ」

「なるほど…」


それならば、これは戦闘では攻撃というより補助として使う方がいいし、救助現場の方がむしろ役立ちそうだ。それならば間欠泉の攻撃を極めるべきか。

パワーローダーは説明を終えて上鳴との話に戻り、発目が腕組みして考える。


「とはいっても、クライアントに対して我々は代替案を提示することが求められる…」

「超臨界水の代わり?」

「ええ……そうですね、そもそも高温高圧という方向性をまったく逆にするのはどうでしょう?」

「…つまり、氷結寄り」


そういえば氷結の方で考えることはなかった。焦凍も同じことができるから、無意識に避けていたのだ。


「あなたの弟さんとの違いは、水の状態で操ることが可能ということです。氷結の力を応用し、その特徴を生かす技…そうですね…過冷却水はどうでしょう?」

「過冷却水?」

「超臨界水は、いわば熱しすぎた水です。一方で、冷やしすぎた水というのも存在するんですよ」


今度は発目は比較的分かりやすく説明してくれた。これは実例が自然界に存在するため、灯水にも理解できたといっていい。

過冷却水とは、本来水が凍ってしまう0度よりもさらに低い温度の液体の水のことである。水の分子が安定して存在でき、かつ一定のゆっくりとした速度で冷却が進んだ場合に、−5度くらいまでは簡単に液体のまま到達するのだという。冷蔵庫でも実践できるそうだ。
この過冷却水は、衝撃によって凍結が始まる。過冷却水を入れた瓶を叩くとすぐに凍っていくのだそうだ。


「自然界では雨氷や霧氷という現象ですね」

「あぁ、聞いたことある」


雨水や霧が過冷却水の状態であるときに、地面や枝などに水滴が付着し、その衝撃で凍結することで起こる現象だ。そのような天候を総じて着氷性という。付着したものの温度が高ければ当然凍らない。


「霧や雨の状態で過冷却水を敵に浴びせてやれば、時間をかければ相手が凍り付きます。ただの氷結よりも避けられないので効果的では?」

「確かに、細かい水滴じゃ絶対避けられないもんね」

「それならあなたのコスチュームはあなた自身の凍結を防ぐための改良が必要ですね!!」


ようやく目が輝いた発目は、すぐに灯水の体の採寸に取り掛かった。代替案の提案、というわりに非常にしっかりとしている。これが天才かと思わずにはいられなかった。


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