新たな双子のかたち−9
5階に上がると、勝手知ったるように焦凍の部屋に入る。焦凍はすでに布団を敷いてスマホを見ていた。
「おかえり」
「ただいま。ね、焦凍、ちょっと話があるんだけど」
改まって言うと、焦凍は少し目を丸くしてから頷く。布団の上に体を起こして胡坐をかいた正面に灯水も腰を下ろす。
「昨日のことか?」
「そう。いろいろ考えたんだけど…」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
焦凍はいきなり遮ると、手を額に当てて深呼吸する。何をしているのだろうか、と思っていると、意を決したように手をどかしてこちらを見据えた。
「よし、いいぞ」
「?うん。あのさ、俺、やっぱ考えても分からないんだ。俺たちはもともと双子で、その、親友みたいでもあるし、クラスメイトだし。それに加えて恋人ってなると、どれが正しいのか分からないんだ。でも、他のヤツには感じないドキドキを焦凍には感じる」
言葉を選んでゆっくり喋ると、焦凍は呆気にとられたようにしてから、大きく息をつく。
「なんだ…ぜってぇフラれると思った」
「なんで?」
「兄弟だぞ、普通そんな目で見ねぇだろ。でも、俺のこと意識してくれてんだな」
焦凍は安心したように、そして嬉しそうに目を細める。焦凍なりに恐れていた部分があったようだ。
「正直に言うと、上鳴君と切島君に相談してさ」
「あぁ、あいつら合宿で色々聞いてたもんな。お前に相談されてうれしかったんじゃねぇか」
「そんな感じだった。それで、切島君に2人で相談しろって言われたんだ。俺ら2人のことだから」
「まぁ、確かにな」
焦凍も納得したらしい。座りなおすと、まっすぐこちらを捉えた。真剣な目つきに、灯水も身構える。
「…俺は、お前と双子で良かったと思うし、親友でも、クラスメイトでも、恋人でもいてぇって思う」
「…全部?」
「そ。兼任してぇんだ」
欲張りと言えばそうかもしれない。だが、双子であることやクラスメイトであることはそもそも事実だ。それに関係性をプラスすること自体は不自然ではない。
「そもそも、好きって気持ちを切り分ける方が俺らには難しいだろ。もともと兄弟で一番近い存在なんだしよ」
「確かに…だからよく分からなかったのか…」
これでただのクラスメイトスタートなら話は簡単だった。だが、もともと最も大切な存在だった2人の間には、すでに大きな大きな好きという気持ちがあって、それは家族愛や友愛を含んでいた。恋愛があったとして、その境界線など曖昧で分からない。
「俺たちの形であればいいわけだろ。世間なんて関係ねぇし、秘密にしてりゃいいだけだ。大事なのは、そういう外的なことじゃねぇ。お前がどうしたいかだ、灯水」
「俺が、どうしたいか…」
そこで思い出されるのは、体育祭で爆豪に言われたことだ。それでいいのかと言われた。その後、神野区では違う文脈ではあったが、はっきりと答えられた。そう、あのときとは違う。もう灯水は、あの悩んでいた頃とは違うのだ。はっきりと、意思を持つことができる。
「…俺も、ずっと、焦凍と一緒にいたい」
考えてみると、焦凍は最初からそう言ってくれていた。恋愛だなんだということに引きずられすぎて、本質を見失っていた。焦凍は何度も、ずっと一緒にいられればいいと言ってくれたのだ。それは灯水も同じ気持ちだった。
「ずっと一緒にいられるなら、なんでもいい。その過程で焦凍に求められるのは、うん、嬉しい、よ」
体を求められるのも、恥ずかしかったが嬉しかった。それだけ灯水への愛情が見た目に分かるからだ。そう伝えると、焦凍は驚いたようにする。
「マジか、そこまで言ってもらえるとは…」
「ま、まぁ、その、どんなことすんのか分からないし、ちょっと怖いけど…焦凍になら、俺、何されても…」
「ストップ、今すぐ抱きたくなるからそれ以上はやめとけ」
正直な気持ちを言うと、さっと焦凍は顔を赤らめて制止した。焦凍も照れることがあるのかと、灯水も少し意外に思う。
「…そういうことは、愛情表現の手段でしかねぇ。そりゃしてぇけど、それがすべてってわけでもねぇからな」
「分かってるよ。だから、嬉しい。したいって言われると、愛情が見えるみたいで」
「……はぁ、灯水が可愛すぎてやべぇ」
焦凍は困ったように笑うと、そっと灯水を抱きしめてきた。それに応えるように広い背中に手を回すと、よりぎゅっと抱き締められる。
「愛してる、灯水。お前と一生添い遂げたい」
「…うん、俺も。色々ごっちゃな気持ちだけど、全部ひっくるめて焦凍を愛してる。ずっとそばにいたい」
焦凍の肩に顔を埋めると、後頭部に手が回ってゼロ距離になる。愛してる。言葉にすると、気持ちが大きくだが形になった。区別することができない感情の集合体のようなものだが、それでよかった。
それが、2人の新しい形なのだ。