置いて行かれたのは−5


休憩室に入ると、中には当然だが1人だけがいた。
1位通過のイナサだ。入るなり目が合うと、イナサはパッと顔を明るくしてこちらに駆けてきた。


「灯水!すげーなあれ!」

「うおっ…」


再び抱き締められ、息苦しくなりながらも応じた。将校マントのバンカラっぽいスタイルのコスチュームはごついが格好いい。


「イナサ君もあの風のコントロールすごいね」

「そうか!?ありがとう!!」


いちいちリアクションが暑苦しい。だが、先ほどの霧氷は凍り付きこそしないが寒いものは寒かったため、今は少しありがたかった。
無意識に逞しい胸元に顔を押し付ける。そういえば身長差は30センチ近くあるはずだ。


「イナサ君あったかいね、さっき寒かったからあったまるわぁ〜」

「っ、いつでも温めてやるからな!」

「うぐ、か、加減してね…」


また苦しくなりつつも、純粋な優しさは一応受け取って置いた。


その後もしばらく近況報告や体育祭の話などで盛り上がっていると、続々と合格した者が部屋にやってきて、50人を過ぎた頃に焦凍もやって来た。最初こちらには気づいていないようだったが、ベンチに座ると声がでかいイナサに気づいた。


「そのとき肉倉先輩が…」


でかい声で話していたイナサはその視線を感じたのか、一度話を切ってそちらを向く。焦凍を見るその目は冷え切っていて、まだ嫌いなんだな、と苦笑してしまった。
イナサが視線を外してこちらに戻すと、小声で聞いてみた。


「…まだ、焦凍のことは嫌い?」

「申し訳ないけど、嫌いだ。あいつも、灯水たちの父親も」

「…まぁ、そればっかりは仕方ないよ、そういうこと自体が良い悪いじゃないから」

「でも灯水のことは好きだぞ!」」

「ありがと。そろそろ俺も雄英に合流するね」


じきに他のA組も戻ってくるはずだ。イナサも士傑が戻り始めたのでそちらに行くことにして、灯水は焦凍のところに向かった。


「お疲れ」

「おう、早かったな。どんくらいで通過したんだ?」

「2位通過だったよ」

「マジか」


焦凍はイナサのことを聞きたそうにしていたが、そこへ八百万、耳郎、障子、蛙吹が通過して部屋にやってきた。すでに通過は70人を超している。
少し汚れているが、ほとんど無傷の4人はさすがだ。


「あっ、轟兄弟さすが、もういる」

「お疲れ様ですわ、お二人とも」

「皆もお疲れ、他の皆は?」


聞くところによると、どうやらあのあとA組は真堂の技によって分断されてしまったらしい。あの地震の正体だったようで、地面を粉砕したようだ。
飯田がクラスの再結集に尽力してくれているらしく、この4人はそうして集まってクリアしてきたのだという。

そこへさらに爆豪、切島、上鳴もやって来たため、焦凍はとりあえず関心を残りのA組のことに切り替えたらしい。自分のことより周りを気にするようになった焦凍は、確かに変わった。イナサとも和解できるといいのだが。
今度は緑谷、瀬呂、麗日も戻ってきてようやく半分ちょっとが揃った。


「A組はこれで12人か」

「あと9人」


焦凍が見渡して言うと、緑谷がうなずく。八百万は先ほどのアナウンスを思い出して計算した。


「アナウンスでは通過82名、枠はあと18人…飯田さん、大丈夫かしら」


クラスの結集に尽力している飯田が、きちんと突破できるのか、八百万は案じているようだった。枠は決して多くない。混戦の程度が激化している今、その枠に飛び込むのは難しかった。
だが、やはりそれは杞憂だったらしい。

最後の最後に、ぎりぎりで全員が滑り込んだ。どうやら雄英潰しというらしい風習の中で、なんとか21人全員が一次試験を突破することができたのだ。

それに喜ぶのも束の間、突然部屋の前方にあるスクリーンがフィールドを映し出し、それを見るようアナウンスが入る。全員の注目がそこへ向いた次の瞬間、突如としてフィールドのすべてエリアで爆発が起こった。ビルや工場、山、森、高速道路が吹き飛んで崩壊していく。
何故!?と驚いていると、アナウンスが入る。


『次の試験でラストになります!皆さんにはこれからこの被災現場で、バイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます』


156/214
prev next
back
表紙に戻る