置いて行かれたのは−7


灯水はほかの受験者に交じって走りだすと、すぐに繁華街にやってきた。先ほど灯水が霧氷を出したところだ。もうすでにあの凍結は解けているものの、あの通りの原型はもはやとどめておらず、一面瓦礫の山だった。
その合間にいるのは、要救助者たち。

彼らはこうした訓練で要救助者役をやる要救助者のプロであり、Help Us Company、通称HUCという会社の人たちだ。ほとんどがそれなりの年齢の男女で、幼い子供もそうしたおじさんおばさんたちがやっている。

瓦礫の山となった通りには、個人もいれば数人の塊もあるものの、それぞれがバラバラに動き始めていて、とりあえずできることから、といった感じで動いている。
その両側には、ビルがすべて傾いて立っており、もうもうと黒煙を上げている建物もあった。

場所柄、繁華街という火の元の多い瓦礫となったここでは、時間が重要だ。二次災害の可能性が著しく高いからだ。素早い捜索による要救助者の確保と、傷病者の一刻も早い退避が必要となる。
すべては効率化の元に達成される事柄だ。


灯水はすう、と息を吸い込むと、大きな声で呼びかけた。


「皆さん!二次災害の恐れが高い場所です、捜索範囲の担当を決めて、道路には一定数傷病者の応急処置を行う要員を置いてください!動ける傷病者の誘導もお願いします!俺は捜索に向いている個性なのでそっちに徹します!」


これでも体育祭3位だったからか、灯水の顔は知れている。個性の幅の大きさを思い出したのか、声を聞いた受験者たちは同意してくれた。捜索向きの者はそれぞれ「ここ入ります!」という風に申告してビルの捜索を開始し、トリアージや救急救命を担当する者たちは一か所に集まって傷病者の集合、処置を始めた。
いずれも不向きの者は動ける傷病者を誘導しつつ背中に動けない者を背負って救護所となった先ほどの休憩室に向かう。

焦凍も自分で勝手に動くだろうから、灯水はとにかく自分の役割に集中することにした。
5人で大きめの8階建てのビルに入っていくグループに混ざるため、瓦礫を蒸気を噴出して飛び越える。


「どうも!雄英の轟です!加勢します!」

「助かる!頼んだ!」


男5人、体格が良く捜索に適しているが、ビルの損壊が激しく範囲型のフォローができる者が必要だ。そこに加わることにしたのは正しかったと思う。
灯水はグループの者たちと簡単に個性の紹介をしあいながら、建物内に目を光らせる。


「誰かいますか!」

「こっちだ!」


すると、歪んだ扉の向こうからそんな声が聞こえた。いったいどうやって入ったのか。
ひしゃげた扉は防火扉のようで、分厚く破れそうにない。さらに、焦げ臭いにおいがきつかった。暗くてあまり見えないが、恐らく煙が漂っているはずだ。


「大丈夫ですか、落ち着いて、そちらの様子を教えてください」


扉の正面に立って声をかけると、中から男と女の声がする。


「ろ、廊下の先で火事が起きてる!炎が迫ってるんだ、助けてくれぇ!」

「子供が下敷きになってるのぉ!早く、早く助けて!!」


錯乱状態の演技だ。やたらうまい。さすがプロだと思いながら、灯水はすぐに次の手を考えた。
まず後ろの5人を見やる。


「俺がウォーターカッターで扉を裁断しつつ消火します」

「了解」


作戦を伝えると、今度は扉の向こうに声をかける。


「下敷きになっているお子さんはどの辺にいます?」

「壁際に…」

「扉の正面に動けない人は?」

「いません」

「じゃあ、これから水圧で扉を切断します。勢いよく水が出てくるので、横に逸れて離れていてください」


灯水は扉の向こうで了承が聞こえたのを待って、扉に右の人差し指を当てた。そして、指に思い切り圧力を籠めてから、水を噴き出した。
それは、水圧によってものを貫通する技、ウォーターカッターだ。同名の技術や装置はすでに消防に使われている。
ガスへの引火の恐れもあるため、火花の出る普通のカッターではなく、水圧を使うことで引火を防ぎつつ向こう側の消火ができる。

そうして5分以上かかったが扉を切断すると、人1人が通れる穴をあけられた。扉の向こう、廊下の火災はかなり後退しているようだ。


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