置いて行かれたのは−8


5人とともにそこをくぐると、後ろの5人のうちの2人がまず男女の様子を見る。残りの3人と灯水で、下敷きになった少年役の男のところに向かった。
少年は柱の下敷きになっており、柱はほかの瓦礫を支え、この建物のこの区画全体を支えているようだった。
3人が少年の容体を見て落ち着かせているうちに、灯水は救助法を考える。このままだと、ビルは崩壊してしまうだろう。他の要救助者がいないと分かってからの方が良い。


「このビルに他に要救助者がいなければすぐにでも救助できるんだけど…」

「お、それなら俺がソナーするぜ」

「本当ですか、じゃあよろしくお願いします」


受験者の男はそう言うと、個性のひとつらしいソナーを使った。音波によってほかの生命体反応を探すらしい。


「…いねぇみたいだ。さすがにこの先にはいかなかったか」


あの火災の先にはHUCの人たちも行かなかったようだ。実際の本番では、本当にどこにいるか分からない。油断できないと思うと、難しさを感じずにいられない。
とりあえず今はこれでいいようなので、灯水は瓦礫を丸ごと氷結させた。


「これで支えてます、いけますか」

「十分、いくぞ」


3人は柱をどかすと、少年を救け出した。他の男女も大丈夫らしい。先に傷病者たちをビルから出してから、灯水も氷結させたまますぐにビルを脱出する。
やがて少しして、ビルは倒壊した。道路でその土煙が傷病者たちのところへ来ないよう、普通の霧を出して別の方向へ吹き飛ばす。

その後、火災の消火や建物の氷結による支えなどフォローに回っていると、ようやく繁華街のHUCはほとんど救け出せたようだ。動ける傷病者は救護所に向かっており、何人かで分担して運んでいた。

めどが立ったのでほっと息をつく。あとはどうしようか、と思っていた、そのときだった。

突然、救護所の方から爆音が轟いた。慌ててそちらを見ると、このビル街と救護所との間のスタジアムの壁が吹き飛び、中から人影が出てきていた。


『敵が姿を現し追撃を開始!現場のヒーロー候補生は敵を制圧しつつ、救助を続行してください』


出てきたのは敵っぽいヒーローランキング3位のヒーロー・ギャングオルカだ。その事務所の相棒たちも次々と現れている。
捜索に救助、そして対敵まで並行させられるようだ。

一瞬出ていくか迷ったが、それよりこの区画で戦闘になる方がまずいし、傷病者が残っている今、ここにいる人々を守ることに専念した方がいい。
灯水は傷病者を背負って救護所に向かっていた数人に声をかけた。


「こっちへ戻ってください!!」


聞こえた受験者たちは慌ててこちらに戻ってくる。それと入れ違いに、焦凍がギャングオルカの方へ走るのが見えた。どうやら焦凍は戦闘に参加するつもりのようだ。火力としては申し分ない、ベストの選択だろう。


「どうする!?」

「俺たちはどう動くべきだ…!?」


灯水の側にいた受験者たちはこちらを見て動揺している。繁華街で捜索や救助を続行している者たちも同様だ。いつの間にか、この区画のご意見番のようになっていた。


「…俺が氷壁でこの区画を防御するので、戦闘力ある人はその壁の前で待機してください。その他は捜索と救助を続行しましょう」


灯水は傷病者を運んでいた者たちが戻って来たのを確認すると、この繁華街の区画と敵の出現ポイントとの間、まだ瓦礫が点在している付近に巨大な氷壁を出現させた。壁の根本には鋭く尖った氷の柱も生やしておいた。透明なそれは、雨氷と同じ硬度でできたもので、氷の中でも普通折れない非常に硬いものだ。

何人かで防衛を始めると、戦闘音が響き渡る。灯水は、不安そうな顔の演技をしている老いた見た目の少年のところに向かうと、その前に水の魚を浮かべた。空気中に浮かべて動かすと、まるで空気を泳いでいるようだ。


「可愛いでしょ」

「うん…」


思わずといったように少年役の男も見ていた。その魚を口元に近づける。


「喉乾いたでしょ?飲んでみて」


ただ飲み水としてではなく、戦闘音が響く中で安心させるために動かしてみた。実際に子供にやっても受けは良さそうだ。

そうやってしばらく籠城していると、突然、スタジアムにブザー音が響き渡った。


『配置されたすべてのHUCが危険区域から救助されました。まことに勝手ではございますが、これにて仮免試験全行程、終了となります!』


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