置いて行かれたのは−9
二次試験が終わり、いったん制服に着替えたあと、受験者は会場に戻った。この場で発表となるからだ。
その間、ずっと焦凍は沈黙していた。思いつめたような表情に声をかけるのが憚られたため、灯水は緑谷に聞いてみた。
すると、どうやら焦凍はあのギャングオルカとの戦闘で盛大にやらかしたらしい。イナサと喧嘩したというのだ。
おそらく、焦凍はイナサと話すなかであの入試のことを思い出したのだと思う。だからこそ、炎司とのことも併せて思い出されて冷静さを欠いたのだ。
心配だが、まずは結果を見ないことにはどうにもならない。
そうして全員が会場の大きなモニターの前に集まると、その画面の前で目良が演壇で体重を支えるようにして立っていた。A組でまとまって緊張の面持ちで見ていると、目良が話し始める。
『えー、皆さん長いことお疲れさまでした。これより発表を行いますが、その前に一言。採点についてです』
目良が語るところによると、スタジアムに配置された公安委員会と、なんとHUCが採点を行っていたらしい。その二重の減点方式で採点され、それが基準値を超えていれば合格となるそうだ。
『とりあえず合格点の方は五十音順で名前が載っています。今の言葉を踏まえた上でご確認ください』
すると画面には、70人あまりの名前が映し出された。かなり受かっているようだ。
中央部にあたりをつけて名前を探す。さ行に始まり、そして常闇の名前。その直後に、灯水の名前があった。
「あっ、た……けど……」
しかし、轟の連続するはずの名字は、灯水の分のみ。焦凍の名前は、なかった。ついでに見てみるとイナサの分もない。
A組は次々と名前と見つけて喜びの声を発するが、灯水は隣の焦凍が気になって喜べなかった。
どうしようかと思っていると、そこへ「轟!」という野太い声が聞こえてきた。
やって来たのはイナサだ。まっすぐ焦凍を見据えている。
すると突然、イナサは腰を折って頭を地面に叩きつけた。
「ごめん!!あんたが合格逃したのは俺のせいだ!俺の心の狭さの!!ごめん!!」
焦凍は驚いた表情をしてから、すぐに逆に申し訳なさそうにする。
「もともと俺が撒いた種だし…よせよ。お前が直球でぶつけてきて、気づけたこともあるから」
やはり焦凍はイナサのことを思い出したようで、そしてあのころとはまるで違う、大人びた凪いだ表情でそう言った。
焦凍は、変わった。今回はまだ未熟な部分が出てしまったが、それでも、良い方向に随分進んでこれたのだ。それも、A組のおかげだ。
「轟…落ちたの?」
「ウチのツートップが両方落ちてんのかよ」
芦戸や瀬呂は聞いていたようで、そう軽く言った。慰めも励ましもいらない。それでいいのだ。
というか、瀬呂の言っていることはつまり、爆豪も落ちたということだ。
「暴言改めよ?言葉って大事よ」
「うるせえ殺すぞ」
上鳴が茶化して言うと爆豪は低く唸る様に言った。どうやらあのいつもの粗野な言動が減点となって落ちたらしい。もったいない。
灯水はこういうとき、どう言えばいいのか分からない。適当な言葉はかけたくなくて、言葉が出てこないのだ。
結局何も言えないまま、採点結果の紙が配られる。ようやくイナサも顔を上げて、ここで渡された紙に目を通した。
灯水も渡されたものを見てみると、95点とあった。減点5点は、やはり市街地へのダメージだったが、高得点ではあるだろう。八百万が94点だというのが驚きの声とともに聞こえてきた。
その後、目良は公安委員会らしく、仮免を持つことでできることと慢心しないことを説いた。緊急時に限り個性の使用が可能になる免許だが、それは社会的責任が大きくなるということである。
また、オールマイトがいなくなった今、次の世代の抑止力として若者たちが活躍して欲しいということと、そのためにより一層精進して欲しいということだった。
『そしてえー…不合格となってしまった方々、君たちにもまだチャンスは残っています』
すると、目良はなんとそんなことを言い出した。どうやら補習に出れば、個人テストで仮免を取得できるというのだ。まだ挽回のチャンスはある。爆豪も、イナサも、そして焦凍も、決意を目に宿した。
「…良かった、焦凍、イナサ君」
「っ、ああ!」
ようやく言葉を発することができた灯水が言うと、イナサは力強くうなずく。焦凍も、緑谷の安堵の声もかけられて、ようやく笑顔を見せた。
「すぐ…おいつく」
こうして、焦凍と爆豪を除く19人は仮免を取得した。2人はこれから補習を学業に並行して行っていくことになる。
前を向いている焦凍だったが、どこか思いつめたような様子なのは、灯水にしか分からない変化だった。