焦凍、焦燥、衝動−5


一同は体操服に着替え、体育館γにやって来た。本気で1対全員での戦闘を行うらしい。まだ体育館はセメントスが作った必殺技訓練のときの岩場のようなフィールドのままだ。
それぞれ準備運動を済ませ、ミリオに向かい合うようにA組も散らばる。天喰は壁に額をつけて立ち、波動は芦戸の角を弄っている。


「ミリオ…止めた方がいい。形式的にこういう具合でとても有意義です、と語るだけで十分だ。皆が皆上昇志向に満ち満ちているわけじゃない、立ち直れなくなる子が出てはいけない」

「あ、聞いて知ってる、昔挫折しちゃってヒーロー諦めちゃって問題起こしちゃった子いたんだよ知ってた!?大変だよねぇ、通形ちゃんと考えないとつらいよー、これはつらいよ」


2人の言葉は優しいが、優しさはときに見下すことにも繋がる。今回はそう感じた一同は、さすがに上級生に勝てると思っているわけではないものの、それでもかちんと来るものはある。
当たり前だ、そうでなければこんなところで学び続けられない。


「そんな心配されるほど、俺らザコに見えますか…?」

「うん、いつどっから来てもいいよね」


切島が口元を引き攣らせながら聞くと、何でもないようにミリオは頷いた。


「一番手は誰だ!?」

「おれ「僕行きます」意外な緑谷!!」


煽られるように名乗り出ようとした切島だったが、先に緑谷が出て、切島に許可も取らず前に出た。緑谷もなかなか豪胆になったものだと思う。


「問題児!いいね君やっぱり元気があるなぁ!」


問題児と呼ぶからには、緑谷が謹慎していたことを知っているらしい。どうやって知ったかは分からないが、緑谷はすぐにフルカウルの臨戦態勢になった。

それを合図に、全員それぞれ構える。


「近接隊は一斉に囲んだろぜ!」


切島は硬化すると、尾白や砂藤など近接戦を行う者たちで前線を作る。その後ろで、中遠距離の攻撃をする者たちが構えた。灯水もその1人だ。
ふと目線を外すと、焦凍が相澤の側にいるのが見える。仮免を取っていないから見学だろうか。爆豪なら真っ先に攻撃を仕掛けにいくだろうに、焦凍までいないとなると、A組ツートップが不在ということになる。
まぁいいか、と灯水はミリオに視線を移した。


(個性が分からないな…迂闊に動けない、最初のモーションはとりあえず相手の出方を伺わないと)


灯水はとりあえず初手の攻撃は避けて冷静にミリオを注視する。


「よっしゃ先輩、そいじゃご指導よろしくお願いしまーーっす!!!!」


切島のその声を号令に全員が動こうとしたそのとき、ミリオの体操服が、突然はらりと落下した。注視しようと彼をガン見していた灯水は動揺する。「えっ、」と思わず声を出したほどだ。耳郎の悲鳴も聞こえる。


「あぁ失礼調整が難しくてね!」


調整、しかも体操服はまるですり抜けるように落ちていった。
何となく個性に見当がついた瞬間、緑谷がミリオに思い切り蹴りを放った。最近、緑谷はシュートスタイルと言って蹴り主体になったらしい。
しかしその強烈な蹴りはミリオの顔をすり抜けた。

矢継ぎ早に、遠距離組の攻撃がまとめてミリオに直撃する。ほとんどが顔面狙いだ。基本的に容赦がないのは、それだけ警戒しているのだ。
しかし、灯水の目に間違いがなければミリオはすべて攻撃を透過させていた。
すぐにミリオがいた辺りは粉塵に包まれてしまったが、灯水はその個性がそのまま透過であると踏んだ。


(全身のみじゃない、それなら地面すら通り抜けてしまう…つまり体の一部だけの透過も可能…そして、地面を通り抜けることもできるとすると…)

「いないぞ!」


煙が晴れると、そこにはもうミリオはいない。
こちらは個性がすべて割れている。ツートップは不在。つまり。


灯水は咄嗟に、それ以上の思考を停止して全力で足から蒸気を噴き出して空中に逃げた。
その次の瞬間、灯水がいたところにミリオが突如として出現し、パンチを繰り出そうと拳を握るのが見えた。


「っぶな…!」

「お、避けたか!」


やはり、地中を通って移動してきていた。本能的に動いてこれだ、考えていては確実にやられていた。この戦い、一番厄介な個性を持っているのが灯水だとミリオも分かっているはずなので、こちらを先に攻撃すると直感で判断したのだ。


166/214
prev next
back
表紙に戻る