焦凍、焦燥、衝動−7


地面に沈んだミリオは、すぐに緑谷の前に現れた。緑谷は予想していたように蹴りを放つが、ミリオは腕を透過させてその足をすり抜ける。


「必殺、ブラインド目つぶし!」


目つぶしのように指が目に伸びる。人体の本能で、緑谷は目を閉じた。その指はすり抜けるが、視界がふさがれた隙に緑谷の鳩尾に重い拳が叩き込まれた。個性を有効活用した小技だ。


「ほとんどがカウンターを画策するよね。ならば当然!そいつを狩る訓練!するさ!」


そういうところはさすが3年としか言いようがない。緑谷が倒れた瞬間、灯水は個性を使って、パッと見では絶対に見えない細い細い水の糸を空中にばらまいた。赤外線センサーのように水は空気中に張り巡らされて漂う。それはすべて灯水の手に続き、それに触れた感触でおおよその場所が分かる。蜘蛛の巣と同じ原理だ。

緑谷を倒して再び地面に見えなくなったミリオは、次に飯田の背後に現れやはり一瞬で鳩尾を殴る。実体化部分が水の蜘蛛の巣に触れれば勝機がある。

灯水は小まめに移動しながら伺うが、その間にも葉隠や尾白、切島とどんどん倒されていく。

そして、その瞬間がやって来た。
砂藤の近くに出現して拳を叩き込んだときに、糸に拳と、踏ん張る足が触れた。それを感じたのと同時に、灯水は氷結をそちらに向けて放った。
タイムラグなし、さらに灯水の氷結は一瞬で拡散するため、ミリオの手と足を捉えた。もちろんそれは透過できるだろう。しかし、灯水の狙いは別にあった。

ミリオは氷結を透過させながらこちらを見た。

そのとき、灯水の目の前、ミリオの正面には、氷の大きな像が立っていた。


「エンデヴァー誕生!!!」


そしてそう叫んだ。

その氷像は、かの有名な「ヴィーナス誕生」をモチーフにしたもので、開いた大きな貝殻の上にエンデヴァーがアンニュイな顔をして胸元と股間を手で隠している。


「ブフッ!!!!」


それを見たミリオは勢いよく噴き出した。
その隙を見逃さず、移動させていた糸のいくつかを足元から一気に強く個性でぶちまけた。

それは、地面すれすれから糸を伝って大量の熱湯となり、下から突き上げるようにミリオを包み込んだ。


「スパイダーガイザー!!」


ガイザーは間欠泉のことだ。蜘蛛の巣状に灯水のコントロール下にある水を漂わせることで、それを通じていつでも間欠泉を狙った場所に噴き出すことが可能なのである。

直径1メートル、高さ8メートルほどまで上がった間欠泉は、蒸気を上げながらミリオを包むが、その大量の熱湯は重力に従って落ちていく。その下には、倒れ伏すA組の面々。


「やっべ、」


慌てて灯水は間欠泉を丸ごと氷結で凍らさせた。間欠泉は大きな氷の柱となったが、その代わり、致命的な隙を灯水に生んでしまった。


「おっしい」

「なっ、」


それを見逃さず、ミリオは思い切り拳を灯水の鳩尾に叩き込んだ。その手は火傷していたが、次の瞬間には重すぎる一撃が灯水の内臓を大きく揺らした。



「ぐぁっ…!」

「俺に一撃入れられたのは君だけだけど、まだまだだよね!」


どうやら、灯水が自分で出した間欠泉に気を取られているうちに、ミリオは生き残っていた麗日と口田を沈めて近接組も全滅させており、灯水が倒れたことでもれなくA組は全員が完膚なきまでにミリオに敗北した。

鳩尾から走る衝撃で吐きそうになっているのを堪えていると、ミリオはぽす、と灯水の頭を撫でる。


「まだまだだけど、やっぱセンスあるよね!てかあの像!」


けらけらと笑うミリオだが、灯水は笑い返すことなどできるはずもない。だが、その歴然とした差にふつふつと悔しさが沸き上がる。


「〜〜〜っ、くっそ!!悔しい!!このやろう!!」


灯水は叫ぶように言うと、腹いせにエンデヴァー誕生に別の氷の槍を生み出して思い切り衝突させ叩き壊した。バラバラに散っていくエンデヴァーに、さらにミリオが笑う。


「…灯水ってそんなんなることあんだな」


一足先に回復した切島が、息も絶え絶えながら悔しがる灯水を呆然と眺めていた。


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