焦凍、焦燥、衝動−8
灯水含め、腹パンされたA組はなんとか立ち上がれるくらいに回復し、ミリオたちの前に集まった。全員腹を押さえてグロッキー状態である。
「俺の個性強かった?」
その前でミリオは笑顔で悪びれずに尋ねた。途端に各自やいのやいのと騒ぐ。
「すり抜けるしワープだし!轟兄弟みたいなハイブリッドですか!?」
芦戸が半冷半燃の焦凍や灯水を引き合いに出すと、ミリオは「いや、」と否定する。波動が答えようとして天喰に止められていた。
「一つ、透過なんだよね!君たちがワープと言うあの移動は、推察された通りその応用さ!」
ミリオの説明する個性の応用は、そんなことがあるのか、というものだった。
ミリオの個性、透過は、文字通り何もかもをすり抜ける。灯水が考えていた通り、足をも透過させると地面の中に落下していくのだ。そして地中で個性を解くと、物質が重複することになる。それは物理学上不可能ということで、どういうことか個性を解いた瞬間に体が地上にはじき出されるそうだ。
その際、体の向きなどによってはじき出される方向を変えることができ、それがワープの原理になっている。
「攻撃はすべてすかせて、自由に瞬時に移動できる…やっぱりすごく強い個性」
「いいや、強い個性に『した』んだよね」
仕組みが分かると、やはりその強さに蛙吹が呟く。しかしミリオは苦笑した。
あらゆる物質を透過させるということは、肺は酸素を取り込めず、あらゆる知覚が機能しなくなる。ただ地中に落ちていく感覚だけがあるのだという。それはとても恐ろしいことだと思える。
さらに、やはり灯水が予想した通り、透過の個性を実用化するには精密なコントロールが必要になる。壁を通り抜けるにしても、地面に立っているために足の実体化は維持しつつ、壁を通り抜ける体の部位だけ透過させるという細やかなことが必要だ。
「簡単な動きにもいくつか工程が必要なんだ。だから、その集中を欠かせることで隙を生もうとした轟君兄の作戦は正しい予測だった!」
「バレてるし…」
そういう作戦だったとミリオにはバレていたらしい。それではやはり上回れない。何枚も上手な先輩に脱帽だった。
「急いでるときほどミスるな俺だったら…」
「おまけに何も感じなくなってるんじゃ動けねー」
上鳴と峰田が、ただの強い個性ではない透過の負の側面にそう言うと、ミリオも頷いた。
「そう、案の定俺は出遅れた!びりっけつまであっという間に落っこちた!服も落ちた」
ジョークのようなものを挟みつつ、ミリオは指でキツツキのように額を叩きながら声を張る。彼の一番言いたいことなのだろう。
「この個性で上を行くには遅れだけはとっちゃダメだった!予測!周囲よりも早く!ときに欺く!何より『予測』が必要だった!そしてその予測を可能にするのは経験!経験則から予測を立てる!」
(そうか、この人は…)
自分と似ている。
個性のデメリットに翻弄されてビリにまで落ちてしまったミリオは、経験を積むことで予測を立てられるようにし、周囲に先んじることでその個性を最大限生かした戦法を身に付けた。それによって、ビッグ3と呼ばれるまでになったのだ。
かつて、灯水も出来損ないと言われながら、努力してここまで来た。まだまだだと思っているが、一定の評価をされていることも事実だ。
焦凍の不完全版として扱われて来た過去を、まだその延長から完全に抜けたわけではなくとも乗り越えようとしてきたことが、ミリオの話すことに重なった。
「俺はインターンで得た経験を力に変えてトップを掴んだ!ので!!怖くてもやるべきだと思うよ一年生!」
ミリオが自身の成長の糧になったという経験、そしてそれを得られたインターン先。灯水はそれらに強く興味を抱いた。自分もそこで経験を得てみたい、それによってさらに成長したい、そう思うようになっていた。