焦凍、焦燥、衝動−10
その夜、夕飯も入浴も済ませ、あとは寝るだけというときのことだった。
灯水は慣れたように焦凍の部屋の布団でスマホを弄っていたのだが、座椅子に座っていた焦凍はふと、こちらを振り向いて声をかけた。
「今日の昼、あの通形って人と話してたよな」
「あ、そうそう。インターンでさ、ミリオ先輩のところでやりたいって話をしてた。先輩の事務所の回答待ちだからまだ言ってなかったけど」
そう話すと、焦凍はやはり顔を曇らせた。いや、今日は完全に強張っている。どうしたのだろうか、と思っていると、灯水から視線を逸らす。
「…随分仲良くなったんだな」
「え…うん、まぁ、あの人誰にでもああいう距離感なんだと思うよ」
「インターンも、親父のとこじゃねぇのか」
「職場体験で行ったし、何より俺は先輩の経験ってヤツを自分もしてみたくてインターンしに行くわけだし」
ミリオのインターン先は、サー・ナイトアイというヒーローで、小規模な事務所ながらオールマイトの相棒だったことでも知られている。尚更、インターン先として興味のあるところだ。
しかし、焦凍の反応は予想外だった。
「…っ、お前は!一度攫われてんだぞ!!」
「っ、焦凍…?」
突然大きな声を出した焦凍にびくりと肩が震えた。焦凍は俯いていて表情が分からない。
「なんで今なんだ…別に、んなすぐじゃなくてもいいだろ…」
「…前も言ったけど、俺はチャンスを掴めるときはきちんと生かしたい。それで、さらに成長したい」
「もうお前は十分強いだろ、体育祭だって3位だったじゃねぇか」
「…、爆豪君に負けたし、つか体育祭の1位と2位が揃って仮免落ちてるんだけど?」
どうしても灯水がインターンに行くのを止めたいらしい焦凍に、灯水もそろそろ苛立ちを覚える。なぜこうも頑なに否定するのだろうか。
しかも、十分だ、なんて言葉。ミリオも言っていた。
ここは雄英、更に向こうへ行かなければならないのだ。
「……わかった、もういい」
すると焦凍は静かにそういった。何が、と訝しむと、突然焦凍は立ち上がり、灯水の上に覆いかぶさるように組み敷いた。
「は……?」
「今から抱くからな」
「……え、なに、」
そして焦凍は、おもむろに灯水のスウェットに手を伸ばした。情緒も何もなく、ズボンを引きずり降ろされる。
「ちょっ、焦凍っ、マジ何して、」
「だから、抱くんだって言ってんだろ」
「…ほ、本気で言ってんの……」
愕然とすると、焦凍は変わらず灯水の下着もずり下ろす。外気に触れる灯水の自身。灯水は羞恥と恐怖で震えた。
「やめ、焦凍、」
「うるせぇ」
焦凍は強引に自分の指を灯水の口の中に突っ込んだ。ぐ、と押し込まれるそれに息が詰まりそうになった。その苦しさは、いよいよ灯水の恐怖を高めていった。
なんで、どうして、いきなりこんな。内心で思う言葉は口に出すことができず、灯水の唾液で汚れた焦凍の指は引き抜かれると、そのまま灯水の後ろに宛がわれた。
「はぁっ、焦凍、ね、焦凍ってば…!」」
「大丈夫だ」
焦凍はそう言って、その指をいきなり灯水の中に突っ込んだ。ぐい、と入ってくるそれは、力の入った灯水の後ろを内側から引き攣らせるような痛みとなって感じられた。
「いっ…!痛い、痛いって焦凍…!」
「大丈夫だから」
大丈夫、と言う焦凍。
だが、目が、合わない。
先ほどから一度も、灯水は焦凍と目が合っていなかった。
こんな行為に何の意味があるのだろうか。体を重ねるのは、互いに互いを一番近いところで感じて、愛を確かめるための行為であるはずだ。思いを告げたあの日に軽く肌を合わせたときは、それがあってとても心地よく感じられたのだ。
しかし今は、ただ恐怖と痛みしかない。愛なんて欠片もなかった。大丈夫と言う焦凍の言葉に、灯水への配慮なんてなかった。
それが悲しくて、灯水はついに潤んだ目から米神を伝うものを拭った。ようやく焦凍はそこで、灯水の様子に気づいたらしい。
「………あ、わりぃ、俺……」
呆然としたように小さく焦凍はそう言って、指を引き抜いた。それにも痛みが走る。
灯水は乱暴に目元を拭うと、急いで下着とズボンを履きなおし、そしてスマホと荷物を素早く持って扉へ走った。
「っ、灯水!」
焦凍に呼ばれたが無視して、灯水は扉を開いて廊下に出る。そこから自分の部屋に飛び込むと、ほとんど使わない自室の扉に鍵を閉めて、ベッドに飛び込んだ。
慣れないベッドは使っていないせいか冷たい。その冷たさが、心に鋭く痛みのように感じられた。