生来、将来、信頼−5
翌日の日曜、3人はコスチュームの入ったケースを持って再びナイトアイの事務所に赴き、着替えてから事務所の前に集まった。
ミリオ、ヒーロー名ルミリオンは、マントがついたスーパーマンのような恰好で、胸元に1000000と書かれていた。「100万の人を救けられるようなヒーローって意味なんだよね!」と教えてくれた。
事務所の入り口の前にて、ナイトアイは今日の説明を始める。
「今日はパトロール兼監視。私とバブルガール、轟、ミリオと緑谷の二手に分かれて行う」
「監視?」
パトロールはよくあるヒーローの平時の仕事だが、それに監視と加わったため、緑谷が尋ねると、バブルガールが答えた。
「今ナイトアイ事務所は秘密の捜査中なんだよ」
「『死穢八斎會』という小さな指定敵団体だ」
指定敵団体は、早い話がヤクザと呼ばれていた前時代の遺物である。個性の出現によって敵という分類が一般的になると、かつて暴力団やヤクザと呼ばれていた組織は更に肩身が狭くなり、オールマイトによってほとんどが解体された。
現在は警察の監視下においてひっそりと活動しているとされる。
「ここの若頭、治アが妙な動きをし始めた」
そう言ってナイトアイが示した写真には、ペストマスクをした小奇麗な顔立ちの男が写っていた。
なんでもこの男、弱小となった敵団体である死穢八斎會を拡大させ、そういったならず者たちを集めて回っているのだという。組織的犯罪の前兆として申し分ない動きだ。
更に、理由は不明ながら敵連合とも接触したというのだ。神野事件以来、どこでどうしているのか分からない連中に、指定敵団体の若頭が接触するなど、事実上の黒だ。
「ただヤツが何か悪事を企んでいるという証拠を掴めない。そのために八斎會は黒に近いグレー、敵扱いができない」
疑わしきは罰せず、この国の変わらぬ法の在り方だ。何かをしたという具体的な証拠や、未遂でも犯罪を行おうとしていた準備罪を確定させられなければ、ヒーローも警察も何もできないのだ。
「我がナイトアイ事務所が狙うのは奴らの犯行証拠、くれぐれも向こうに気取られないように」
こうして、インターン初日が始まった。
ミリオと緑谷が向かった方向とは逆の方角へ、ナイトアイとバブルガールと並んで歩き出す。
名古屋の近郊の街だけあって、どこを見ても人通りが多く賑わっている。日曜日のため、尚更人の入りが多いようだ。
そんな中でも、やはりコスチュームを着て歩いていれば目立つようで、すぐに灯水は人々に指をさされた。
「なぁ、あれって…」
「あっ、体育祭のあの…!」
すると、灯水の足元に突然子供が数人群がって来た。
「あーー!!雄英のラスボスの人だ!!」
「ら、ラスボス…」
大声で言うものだから、あっという間に灯水は注目されることになってしまった。「ナイトアイのとこにいる」「インターンってヤツ?」「すごい、本物だ」様々な声が飛び交う中、子供たちが期待に満ちた顔で見上げてくる。
「…、そうだぞー、正義のラスボスだぞ」
「うおおお!!すっげー!!」
「悪いことしてるヤツを凍らせるからね」
「俺良いことしてる!」
「私も!!」
ちびっこたちは口々に言うと手を上げる。こぞって自分は良い子だと自主的に言う子供たちに癒された。
「お、良い子は褒めてあげよう」
わしゃわしゃと頭を撫でてやると、きゃっきゃと声を上げて子供たちが喜ぶ。素直で可愛いな、と思ってつられて笑みが浮かんだ。周囲の人々、特に女性がざわついたが、ナイトアイたちを待たせているので灯水は屈めていた腰を上げる。
「よし、じゃあ俺は悪いヤツがいないかパトロールするから行くね」
「俺もヒーローやる!」
「お家のお手伝いして勉強ちゃんとするヒーローとなら一緒に仕事するよ」
「頑張る!!!」
本当に素直で良い子たちだな、と思いつつ、手を振って灯水はナイトアイに合流した。「すみません、」と一言詫びると、ナイトアイはちらりとこちらを見る。
「宣伝の費用対効果が絶大だな」
「ま、マーケティング…」
「冗談だ」
「冗談言う顔で言ってくださいよ…」