生来、将来、信頼−6


真夏をやっと過ぎようか、というくらいの残暑の空は、だんだんと雲が多く出てくる。

パトロールを早々に終えると、ナイトアイはまっすぐ住宅地の真ん中に足を進めた。なんの変哲もない閑静な住宅街、その一角に、大きな塀に囲まれた邸宅があった。

どうやらここが死穢八斎會の本拠地らしい。

連日、ここで人の出入りを見張っているということだ。気づかれないよう、少し離れた雑居ビルの隙間の路地に身を隠す。
ただひたすら邸宅の様子を眺めるだけの時間で、バブルガールもたまにあくびをしている。灯水はふと、ナイトアイに聞きたかった、灯水が不安に感じていたことを思い切って尋ねてみることにした。


「…あの、ナイトアイ」

「どうした」

「……ナイトアイは、オールマイトの元相棒ですよね、事務所もあんなに彼へのリスペクトがあって」

「そんな当たり前のことを聞いてどうした…と言いたいが、どうせ神野事件のことだろう」

「っ、そんな分かりやすかったですか…」

「私は大人で、ヒーローだ。その程度の機敏くらい悟れる」


灯水は、ナイトアイの事務所でインターンをするにあたって、ずっと不安に思っていたことがあった。それは、神野事件に起因する。

あの事件は、誘拐された灯水と爆豪を救け出すためにヒーローたちが出動した際に発生したものだ。用意周到に、オールマイトを倒すために準備された様々な仕掛け。綿密な計画と、圧倒的な力。

神野区は破壊され、多くの犠牲者が出て、Mtレディやジーニストなど多くのヒーローが負傷した。そして何より、オールマイトが引退した。
さすがに、自分たちのせいであの事件が起きたとは思っていない。たとえ灯水と爆豪が誘拐されずとも、八百万が脳無に取り付けたという発信機を頼りに遅かれ早かれヒーローたちは本拠地を潰すために行動したはずだし、灯水たちの存在が敵連合の居場所発見に役立ったのではなく、ただ警察の捜査の結果だった。
誘拐がなくても、あの事件は起きていたのだ。

しかし、灯水と爆豪を守るための戦いをしていなければ、オールマイトの限界を迎えることはなかったかもしれない。そういう思いはあったし、何よりナイトアイがどう思うかと事実がどうであるかは別だ。
あの事件で根幹の問題となってしまったのは攫われた2人であることは事実なのだから。

それを気にしていることは、ナイトアイにはお見通しであったらしい。ナイトアイは、触れた相手の未来を予知できる。だが、その個性がなくても灯水の考えていることは容易に分かったようだった。


「むしろ轟、君はあの事件で誘拐されずに自分が危機を乗り切れたと思うのか?それこそオールマイト不在の隔絶された森林の中、僅か6名のプロヒーローしかいない状況で、横浜の郊外を壊滅させるような団体から」

「…それは、」

「それほどまでに強ければわざわざインターンなどしていないだろう。思い上がるな、お前はまだ子供だ。仮免を取っていても、個性を強くできていたとしても、私に考えを簡単に読み取られる程度には子供だ。雄英は無能ではない、あの事件を引き起こしたようなヤツらに誘拐されたことも、そのためにオールマイトがすべての力を使い果たしたことも、すべてお前にはどうしようもないことだった」


思い上がるな、という言葉は厳しいが、今はこの上ない優しい言葉でもあった。灯水の弱さは、それはそれで学生として受け止めなければならないし、やはりミリオにも及ばない。
そんな自分がどうこうできたわけでもないことでオールマイトが引退したのだとしても、灯水には一切関係のないことだと言ってくれているのだ。


「それでもなお、オールマイトのことを気にするというのなら、その自責の念で強くなることだ」

「…はい!」


そのために、自分はここにいる。
オールマイトがいなくなった日本の安定の一助となれるようなヒーローになるために。


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