生来、将来、信頼−7
同日。
焦凍は、全身にヒリヒリとする痛みを感じながらも、包帯や薬品の匂いに包まれて電車に揺られていた。
仮免補習の2日目を終えて雄英に変える途中だ。
電車の中、同じ補習を受ける爆豪は一つ席を開けて座っていたが、少し人が入ってくると焦凍の隣に移動した。同じ制服で同じ包帯だらけの格好をしているのだ、無関係を装う方が不自然だし、それで人に迷惑をかけないよう気を遣ったのだろう。焦凍としては爆豪のそういうところは好ましく思うのだが、それを言えば爆豪が気を害することくらいはさすがに分かっている。
それにしても、さすがに厳しいな、と焦凍は思った。昨日に引き続き今日も補習では生傷が絶えず、大量の課題を出され、明日から雄英の通常授業も始まる。休みがない。
帰って灯水を抱き締めて寝たい、と思った瞬間、もう灯水は焦凍の部屋には来ないのだと思い出す。最近はこの繰り返しだった。
それだけ当たり前のように灯水は隣にいて、そして焦凍はその当たり前に甘えていた。
それが灯水を傷つけた。
思わずため息をつくと、爆豪は舌打ちをついた。
「さっきからてめぇは辛気臭ぇんだよクソが」
そう言った爆豪に、ふと、焦凍は爆豪が色々と轟兄弟の事情を知っていることを思い出す。体育祭や神野事件など、ことあるごとに2人に関わっている男だ。
「…なぁ爆豪」
「無視かよ死ね」
「お前は灯水のことどう思う」
「はぁ?知るかカス!!」
爆豪は焦凍の言う事に耳を貸す気はないようだが、焦凍はそのわりにきちんと言葉を返してくる爆豪に甘んじて、ぽつぽつを話し始めた。
「…俺は、正直生まれつき才能があった。個性は親父が言うように両親の良いとこ取りで、体格にも恵まれた」
「何勝手に語り出してんだよふざけんな」
「灯水は出来損ないなんて言われて、それでも俺のために努力して強個性とまで言われるようになった。だから、俺と灯水はスタートからもう違った…双子といえど、俺はあいつを完全に理解することなんてできなくて、気付けなくて、それがあいつを今まで苦しめて来た」
「………」
「神野事件で俺はそれを知って、これからは俺があいつを守ろうと誓った。なのに、あいつは自分で努力して得たものでどんどん上に上がってく…それが怖くなって、俺は、あいつを傷つけた」
何度も何度も、焦凍の頭の中には涙を浮かべる灯水の姿がリフレインした。灯水を組み敷いた両手を見つめると、それがあまりに汚いもののように思えた。
もともと、生来の才能があったのは焦凍だった。自分が灯水を傷つけていたことを知って、次は守りたいと思っていたが、実は灯水は努力して掴みとったもので焦凍よりも先に高いところへ行っていた。差があったのだ。
自分の力で上っていく灯水。焦凍は、そうやって成長していくことに対して何の手助けもできなかった。
何も、できなかったのだ。
その恐怖と焦りは、仮免に落ちるという明確な挫折によって形となり、置いて行かれる恐怖が繋ぎ止めたいという衝動となった。
そして、あの夜だ。
あれ以来、灯水とは一言も喋っていないし、目も合っていない。
2人は双子であり恋人でもあるのに、避けようと思えばこんなにも簡単に距離を開けられるのだ。改めて、灯水が隣にいてくれることがまったく当たり前のことなどではなかったのだと思い知った。