生来、将来、信頼−8


一方、爆豪は何を勝手に喋っとんだ、と内心で思いながらも、焦凍の言う事に思うところがないわけではなかった。
なぜなら、それは爆豪にとって決して他人事とは思えないものだったからだ。


(チッ、他所から見ると胸糞悪ぃな…俺とデクと似た状況なんてクソみてぇな展開しやがって)


そう、焦凍と灯水の状況は、爆豪と緑谷の状況に似ていたのだ。

焦凍は、生来の才能がある自分には灯水のことを理解しきることはできず、灯水が努力によって上へ上がっていって自分との差をつけると、その差に恐怖を焦りを感じたと言っていた。
認めるのは癪だが、まさに爆豪と同じだった。


才能マンと多くの人に言わしめる爆豪は、自分でも自慢ではなく客観的事実として、自身が生来の才能に満ち溢れていると思っている。個性も、体格も、頭脳も、センスもすべてそうだ。
だから、緑谷はそこらへんの路傍の石でしかないはずだった。自分の後ろを歩くので精一杯の、無個性のクソナード。それに過ぎない、はずだった。

しかし雄英に来てみればどうか。一丁前に爆豪に逆らったかと思えば、屋内対人戦闘訓練でも、USJでも、体育祭でも、職場体験でも、そして期末試験でも、緑谷は目覚ましい成長を遂げ、爆豪を追い抜かんとしていた。いや、見ようによっては、爆豪の先を行っていた。

さらには仮免に爆豪は落ちて緑谷は受かった。神野区の事件以来、個性にオールマイトが絡んでいることを理解していた爆豪は、先日、緑谷に喧嘩を吹っ掛けた。謹慎を食らった原因だ。


2人とも、同じオールマイトに同じ憧れを抱いたはずだったのに、緑谷はオールマイトに認められ、自分は彼を引退に追いやった。

雄英での学生生活が始まってから、ずっと爆豪の心の中を侵食していた恐怖を焦りは、あの事件で引け目すら加わり、いっぱいいっぱいになったところで喧嘩を吹っ掛けたのだ。


思えば、緑谷と灯水も似ていると爆豪は思う。焦凍と爆豪に生来の才能があるのだとすれば、2人には、生来の人を救けたいという気持ちがある。
だからこそ、灯水は家族が自分から離れていくという年少期には絶望的な状況下でも焦凍を守ろうとしたわけだし、緑谷だって何度も爆豪に手を差し伸べた。
努力を重ねて上へ上へ駆けあがっていくところもそうだろう。

今、あの喧嘩を経てからの爆豪と焦凍との違いを見出すとすれば、それは冷静さだ。

爆豪はあの夜、緑谷とオールマイトから真実を聞いた。誰にも明かすわけにはいかない、とんでもない秘密だ。
長年嫌ってきた相手だ、そう簡単にそういう気持ちが拭えるわけではないが、ある程度、爆豪は冷静に緑谷を評価できるようになった。緑谷だけでない。どんな人間だろうと、自分の糧にできると思えば吸収する。
相手を認めることで、自分に足りない部分を冷静に見つけ出し、必要なものを吸収しようという姿勢になっているのである。

そうやって、まずは相手を冷静に見つめることが重要なのだということは、やはり癪に障るけれど、大人から学んだことだった。

何よりも最大の違いは、爆豪と緑谷の間には一切愛なんて存在しないが、焦凍と灯水の間には兄弟愛でも家族愛でも、そうした愛情があることだ。それは簡単に失われるものではないのだ。
関係性は似ているが、そこはまさに決定的な違いと言える。

そんな簡単なことに、焦凍は気づけなくなっているようだった。


「…チッ、つくづく面倒な双子だなクソが」

「…、その自覚はある」

「うぜぇ。てめぇら、それこそ生来の関係だろが。双子なんつー関係しといて不安になることかよ」

「……、でも」

「でももクソもねぇわ。んな簡単に切れる縁でもねぇことも見えなくなってんだろが。冷静にメッシュ野郎のこと見ろ。ガキみてぇに駄々こねてねぇで冷静に相手受け止めるところからだろ」


焦凍はだんだんと何かに気づいたような顔をする。当たり前のことなのだ、気づいて当然だ。


「将来どういう関係になりてぇのかぐれぇ考えとけや半分野郎、脳みそも半分なんかよ。そんで、その将来に必要な自分になるまでメッシュ野郎に待っててもらうよう信頼することすらできねぇのか」

「将来、どういう関係になりたいか…それまで待っててもらう、信頼…」


なぜ自分はこうもこの双子に余計な脳細胞を使う羽目になるのか、とうんざりしながらも、律儀に相談に乗ってしまった自分にもうんざりする爆豪だった。


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