死穢八斎會戦/前編−6


壁を破って一同が廊下を進み始めてすぐ、また大きな変化が発生した。

突然、壁や天井、床がぐにゃりと歪んだのだ。
廊下がうねるようにして形を変えていき、あっという間に退路も進路も絶たれる。
事前に配られた資料にあった敵の個性を考えるなら、これは入中の仕業だ。入中はモノに入り自在にそれを操ることができる、擬態という個性を持っている。


「しかし!規模が大きすぎるぞ!」


警察の指揮官の男が言うと、ファットガムは「きつめにブーストさせれば、ない話やないか」と呟いた。先日の事件で使われた違法薬物だ。
本来、冷蔵庫くらいの大きさしか操れない入中は、薬で個性を強化して、この地下そのものに擬態しているのだ。そして、その形状を変化させている。


「イレイザー、消せへんのか!?」

「本体が見えないとどうにも…」


これでは、一同は永遠に目的地までたどり着くことはできない。その時間で治アたちも逃げおおせてしまう。退路がなく戻れないのでは、追跡捜査にも移行できないだろう。
同じように考えた天喰は、顔を蒼白にさせた。


「即座にこの判断、対応…あぁ…だめだ、もう…女の子を救い出すどころか俺たちも……!」

「環!!」


そんな天喰を叱咤するのは、幼馴染のミリオだった。


「そうはならないし、お前は!サンイーターだ!!」


動き、迫り続ける壁と化した廊下を前に、ミリオは走り出す姿勢を取った。そしてそのまま言葉を続ける。


「こんなのはその場しのぎ!!どれだけ道を歪めようとも、目的の方向さえ分かっていれば、俺は行ける!!」

「ルミリオン!!」

「先輩!!」

「先に向かってます!!」


そのままミリオは走り出し、透過によってうねる道を突き進んでいってしまった。ナイトアイと緑谷の声も聞かずに、すぐに見えなくなってしまった。確かに時間が重要な今回の作戦では、ミリオのこの動きは正解だ。

心配も束の間、次の瞬間、灯水たちの足元の地面が、消失した。

次は何かと思えば、ナイトアイもファットガムも、先頭にいたヒーロー事務所組は一斉に落下し、警察の大半は廊下に取り残された。


「う、わっ…!」


思わず灯水は蒸気を出して浮かぼうとしたが、閉じ始めた廊下の床を見てやめた。このまま空中に留まれば、すぐに捕捉されてしまう。
幸い、落下する先は下の階だったようで、ヒーローたちは大して動揺もせずに着地した。その咄嗟の判断は、先ほど同様にさすがとしか言えない。

落ちた先は広間のような空間で、ヒーローたちと警察の一部がここに来ていた。天井はもう閉じられ、またも分断された形だ。
その広間に煙とともに現れたのは、3人の男たち。他の組員とは、少し赴きが異なる。敵の個性リストに乗っていた者たちだ。


「おいおいおい、空から国家権力が…不思議なこともあるもんだ」


そう言って刀を翳すのは窃野、個性は窃盗で触れたものを移動できる。他の2人は宝石などの結晶を出せる宝生、何でも食べつくす多部だ。
次から次へと一同に襲い掛かるトラップの数々は、まさに治アが用意したものだ。作戦がバレていたわけではなく、治アの警戒心が高かったということだろう。
ここまで事態が矢継ぎ早に進むと、状況把握だけで時間が過ぎて動けなくなってしまう。それでも行動を決められるのはプロだけだ。


「よっぽど全面戦争したいらしいな…そろそろプロの力見せつけ、」


そこへファットガムが拳を握って3人に向かおうとすると、意外にも天喰がそれを遮った。


「そのプロの力は目的のために…!こんな時間稼ぎ要員、俺1人で十分だ」

「何言ってんスか!協力しましょう!!」


切島は諫めようとするも、3人は先に動き出した。こちらへ迫る男たちを、相澤が個性を消して動けなくする。
更に、天喰が巨大な貝殻を再現して男たちに振りかぶると、タコの足によって拘束、武器まで取り上げる。僅か数秒のことだった。


「こいつらは相手にするだけ無駄だ。プロたちがこの場にとどまっているこの状況こそ、相手の思うつぼだ」

「でも先輩…!」


なおも切島が食い下がる。先ほどのミリオ同様、インターン生1人で行動することに、もちろん大人も抵抗はあるだろう。しかし、天喰は引かなかった。


「イレイザー筆頭にプロの個性はこの先に取っておくべきだ!ファットガム!!俺なら1人で3人完封できる!!」

「っ、行くぞあの扉や!!」


ファットガムは逡巡するが、すぐに扉に向かって走り出した。その判断を見てから、他のメンバーも後に続く。


「皆さん!ミリオを頼むよ、あいつは絶対無理すると思うから、助けてやってくれ」


天喰は最後にそう言うと、相澤の援護で3人を更に強く拘束する。その言葉を無言で受け入れてから、灯水は緑谷や切島とともに、広間から廊下へと走り出した。


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