死穢八斎會戦/前編−7


広間を出た廊下は正常で、どうやら入中の影響範囲は限定されており、操作するために意識を向けているのは別の場所なのだと推測された。その隙に上の階へ戻ろうと、見つけた階段へ向かっていたのだが、突如として入中の個性はこちらに向けて発動された。

突然、壁が変形し、巨大な棒のようになって突き出してきたのだ。それは相澤を突き飛ばし、反対側の穴へ向ける。分断する気だ。
ここで相澤を失うのはまずい。すると、ファットガムが相澤を押しのけ身代わりになった。入中の個性を消して本体を叩く機会を生み出すためだ。


「すまない!」

「気にすんな!」


ファットガムはその言葉を残して壁の向こうに消えた。邪魔になる変形した壁を緑谷が破壊すると、灯水は人数が足りないことに気づいた。


「あれ、切島君は…!?」

「…いない、まさか、」

「…ファットガムのところだろうな」


緑谷も気づいたのか辺りを見渡す。相澤が思い当たった通り、恐らく切島はファットガムとともに飛ばされた可能性がある。
これでファットガム事務所は全員いなくなり、ナイトアイ事務所と相澤、ロックロックしかヒーローはいない。

しかも、入中は依然としてこちらをどこかから見ている。

廊下は再び先ほどのようにうねり始め、今度は明確に一同を圧殺しようとこちらに迫って来た。


「また来てるぞ!いい加減にしてくれ!あらびきハンバーグにされちまう!!」


ロックロックが叫ぶ。そんな彼にナイトアイが指示すると、ロックロックは「あんたのせいだろ」と怒鳴りつつ個性を使った。個性は施錠、鍵を閉める動作をすることで、そのものの状態を固定できる。
しかしその影響範囲は狭く、固めたところで別の壁が迫ってきていた。

緑谷が蹴りで破壊しても、後ろから次の壁が来る。

今度は灯水が、迫ってくる壁を足元のコンクリートから凍結させる。中に含まれる水分子を凍結させることで、表面的な氷結ではなく内側から凍らせるのだ。
だが、それは壁を破壊するだけで、やはり後続がやってくる。

埒が明かない、と全員の焦りがピークに達したときだった。

突然、迫ってきていた壁が一斉に後退し、元の廊下よりもむしろ広くなった。広大な空間となったと思うと、その直後に一同を分断するようにコンクリートが出現した。

灯水は咄嗟に蒸気で飛びのき、相澤と相澤が引っ張った緑谷と一緒になる。
警察やナイトアイは別の場所に分断され、こちらは3人だけとなった。


「また分断…煩わしいな」

「本当にな」


思わず呻くように言うと、相澤から同意を得られた。思えば、こうして授業ではなく一緒に任務遂行にあたるというのは新鮮だ。
すると、壁の向こうからロックロックの争うような声が聞こえて来た。すぐに相澤が呼びかけるが、応答はない。


「なんだ…?」

「イレイザー、どいてください!!」


緑谷は壁を蹴り飛ばし破壊する。ガラガラと崩れる壁の向こうには、ロックロックが2人いた。
片方地面に倒れて血を流し、もう片方は焦ったようにこちらを見てくる。


「偽物が急に現れて襲ってきやがった!気をつけろ、まだどこかに!!」


相澤は倒れた方に向かい、ロックロックはこちらにやってくる。
気をつけろ、という言葉は、灯水には少し違和感があった。そんな心配の言葉をかけてくるような男ではないと思っているからだ。

こちらに歩いてくるロックロックはまっすぐ緑谷を見つめている。そもそも、偽物が来たというが、こちらが偽物ではないという保証はあるのだろうか。
そう思った瞬間、ロックロックはおもむろにナイフを振りかぶった。


「なっ、」


灯水は即座に氷結を出して2人の前に防御として出す。同時に、相澤が個性を消した。
その瞬間、ロックロックの姿は溶けて、少女の姿が出て来た。


「トガヒミコ!?」


緑谷がその名前を叫ぶ。そうだ、灯水が誘拐されたときに、敵連合の本拠地にいた女子高生だ。連続失血死事件の犯人だとされる。


「トガ!そうだよトガです!覚えててくれた!わああ嬉しいなァ!嬉しいなァ出久くん!!」

「ここまでだトガヒミコ!!」


どのような原理かは分からないが、トガは姿を変えらえるらしい。相澤がそれを封じて、捕縛紐で捕らえると、トガは鮮やかな身のこなしでくるりと空中で回転した。その勢いを使って、相澤の背中に回り背中をナイフで一突きする。
相澤は目にもとまらぬ速さで腰からナイフを取り出すと紐を切断する。トガはそのまま転がって相澤から離れ、灯水は捉えるために氷結を放つ。
しかしそれが届く前に、入中によって壁が発生しトガは見えなくなった。


「先生っ、」

「大丈夫だ」


傷は浅いらしい。自分で手当てする横で、緑谷は壁の向こうをじっと見ていた。

接触があったなどと言われていたが、これは完全に協力だ。どこまれ連合が関わっているのか一気に不透明になってしまったのである。
かといって、今さらここで引き返すこともできいない。当面、警戒を強めつつ先へ進むしかないだろう。


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