死穢八斎會戦/後編−3


ミリオは慌てて駆け寄ってくる。まだ治アはもやの中で見えない。


「大丈夫か!?」

「大丈夫、です…!それより、次が、」


そう言い終わる前だった。
治アは次の攻撃を放ち、こちらにコンクリートの針が迫りくる。蒸気を出そうとしたが、左足に力が入らない。痛みで麻痺しているのか、感覚がなかった。
バランスを崩して飛べないのを見たミリオは、灯水とエリの前に立ち塞がった。

その瞬間、尖った柱はミリオの右の脇腹と左足を貫通した。


「っ、ミリオ先輩!!!」


地面に飛び散る鮮血。灯水は叫んで名前を呼ぶが、ミリオはさすがに答えるには痛みを耐え切れないようだった。エリの体が固まり、息を飲む声がする。
ようやく蒸気が晴れると、治アのボロボロの姿が見えた。


「ヒーローになりたかったか…エリを救いたかったか、ルミリオン」


その肌は確かに大やけどを負っており、顔も腕も足も、すべて真っ赤に爛れていた。しかし、それらはどんどん分解・回復によって治っていく。


「あいつ、自分を分解して…!?」


正気の沙汰ではない。そんな治アは、体を治しながらミリオを見つめる。血がどんどん地面に流れていた。
灯水の顔は蒼白になっていることだろう。一刻も早くミリオに応急処置をしたいのに、治アの方が回復が早い。


「すべて汚らしい現代病だ…エリの力でそれを治してやる」


だがミリオは、自らコンクリートを引き抜いてしまった。脇腹から更に出血する。それでも、ミリオの瞳には強い意志が宿っていた。


「……、治アィ!!!」

「その名は捨てたと言ったはずだ!!!」


治アが再び地面に手を突く。早く、エリとミリオを抱えて蒸気で飛び上がらなければ、今度こそ殺される。灯水は感覚のない足を叱咤して立ち上がろうとするが、言う事を聞かなかった。

その次の瞬間、突如として壁が向こう側からぶち抜かれた。破壊された壁は地面に散らばり、そこから、緑谷、ナイトアイ、相澤がこの空間に飛び込んできたのだ。


「っ、緑谷君…!」


緑谷は飛び込んできた勢いのまま治アを殴り飛ばす。続いて相澤が個性を消し、ナイトアイがこちらに駆けてくる。


「ナイトアイ、先輩が…!」


灯水はすぐにナイトアイにミリオを処置してもらおうとしたが、ナイトアイは、エリと灯水、そしてミリオを庇うように抱き締めた。長身の体躯に包まれるように抱き締められるその感覚は、労われているようだった。


「すごいぞ…すごいぞミリオ……君もよくやった、轟」

「…、俺が来るまで1人で幹部を倒したのは先輩です、俺たちのことを庇ってこんな怪我を…それに、」


ミリオの個性のことを告げようとした灯水だったが、治アの怒声に意識をそちらに戻す。
治アに呼ばれた玄野は、おもむろに起き上がって矢印の形をした髪の毛を相澤に突き刺した。緑谷は相澤が庇い、相澤は掠っただけだが、玄野の個性クロノスタシスによって、相澤は時間の流れが非常に遅くなってしまう。
空中に物理法則を無視して浮遊するように倒れようとする相澤の横で、緑谷は地面に手をついて着地する。

そして、治アは個性を発動して、この空間のほとんど全体に尖った柱を所せましと出現させた。
刺さらないよう避けるのが精一杯で、ナイトアイによってミリオ、エリも守られた。緑谷も無事のようだが、相澤と玄野が見えない。分断された可能性がある。

更に治アは、地面を突き上げて空中に跳ね飛ばした音本を自分に近くに落とすと、その体に手をかける。
途端に音本の体は吹き飛び、治アの体すら粉々になる。それは素早く新しい形を再構築していき、1人になった。
仲間と自分を分解し、一つにまとめ直したのだ。あまりにおぞましい出来事に戦慄する。


「さぁ…エリを返してもらおうか」


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