死穢八斎會戦/後編−5


まさか、と思ったのと同じタイミングで、先ほど緑谷が開けた穴に、エリが立っていた。


「望んでない…!」

「なんで…!ダメだ…!先輩のところにいるんだエリちゃん!」

「エリちゃん!戻って!!」


灯水も呼びかけるが、治アはエリになおも語り掛ける。


「重傷のこいつら2人でこの状況…何とかなると思うか?」

「…思わない」

「じゃあどうするべきだ?」

「戻る…その代わり、皆を元通りにして…!」

「そうだよな、他人が傷つくより自分が傷つく方が楽だもんな」


やられた。多少の怪我は構わない心づもりで戦っていた灯水たちだが、それを使われてしまった。エリは負傷したヒーローたちを見て、自ら治アのもとへ向かおうとする。当然、治アがヒーローたちを治すことなどあり得ない。


「まだルミリオン1人の方が望みはあった…ヤツで芽生えかけた淡い期待が砕かれた。気づいてるか?お前らはエリにとって最も残酷な仕打ちをしていることに」


緑谷、ミリオと出会ったとき、そしてこうやって救出作戦に赴いたとき。エリに期待させて、目の前で命を落とすなど、エリにとってあまりに酷なのは確かに言う通りだ。


「おまえらは、求められてない」


それでも、神野区でたくさんの人に救けられ、A組に、そして焦凍に救けられた上で存在するこの今という時間を、灯水は幸せだと思う。
切島の手を掴んで飛んだ空、焦凍の歩み寄りを受け入れた警察署でのことが、灯水をここに立たせている。あのとき救けを求めることができて良かったと思うのだ。


「…たとえそうであってもいい…!俺は、ここで救けられて良かったってエリちゃんが笑う、そんな未来の可能性を守るんだ!!」

「そうだよ…余計なお世話としても、君は泣いてるじゃないか…!誰も死なせない!!君を救ける!!」


そんな男の言う事を聞く必要はない。灯水はそんな思いで、エリに向かって言った。緑谷も叫ぶように言って、自らに突き刺さっていた瓦礫を拳で砕いた。

すると、まるでそんな2人に呼応するかのようだった。
突如として天井が轟音を立てて崩壊し、配管を引きちぎりながら大量の瓦礫が降り注いできた。それとともに落ちてくるのは、ドラゴン姿のリューキュウと、麗日、蛙吹だ。リューキュウが下敷きにして着地したのは、最初に襲い掛かって来た大男だった。


「なっ、は…?」

「デク君!ヒスイ君!」


麗日が呼ぶと、頭上から一気に陽光が降り注いで明るくなった。地上からここまで破壊してきたらしい。
その地上に空いた穴の淵からこちらを覗くのは、トゥワイス、トガ、そしてコンプレスだ。敵連合の登場に、いよいよ状況は混迷する。
いったい何が起きているのか分からないが、コンプレスがまっすぐエリに向かって降りてくると、緑谷もすぐ保護するため走り出した。

しかし、治アが地面から四角く柱を突き出して、エリを吹き飛ばした。空中に投げ出されたエリの体が力なく舞う。


「治アッ!!!」


緑谷の聞いたこともない本気の怒声。治アはそれを無視してエリをキャッチすると、自らがいる部分の地面を地上に向けてどんどん引き延ばしていき上昇する。このまま逃れる気だ。
緑谷が急いでそちらへ飛び上がる。灯水も続こうとしたが、ふらりと頭に来てよろめいた。


「大丈夫!?」


麗日に支えられ何とか意識を保ったが、左肩、右腕、左足から流れる血の感覚がずっと止まらない。銃創型の傷だからだろう。だがそれを止血している余裕などなかった。


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