死穢八斎會戦/後編−6
突然、治アたちがいた柱状の地面の上部が爆発したのだ。
ものすごい衝撃波が吹き付け、地下空間に吹き荒れる。何とかその中で見上げると、もうそこに柱はなく、緑谷とエリの姿はなかった。
庇ってくれたリューキュウの翼越しに地下を見渡すと、瓦礫の中によろめく治アの姿があった。
「っ、治アはあそこに…!」
治アは落ちていた大男に手をかけると、先ほど同様自らをまとめて分解し融合した。更に融合は周囲の瓦礫すら巻き込んでいき、治アは巨大な怪物の口の中にいるような状態になる。
ナイトアイは朦朧とする意識の中でそれを見て、うっすらと口を開く。
「…ヤツは…緑谷とエリちゃんを追って地上へ出る…そして…緑谷を、殺す」
「そんな…!」
恐らく予知だ。先ほどの戦闘で使ったのだろう。愕然とすると、麗日は何とかしようと走り出すが転んでしまった。顔色が著しく悪い。
「それを聞いて黙ってると…?」
「君たちのその状態では…ヤツに向かっても勝てない」
「だからって何もしやんのはちゃうやろ!!未来なんて何かせな変わらんやろ!!」
それでも麗日は立ち上がった。体育祭のときと同じく、どんな苦境でも立ち上がる強さがある。
灯水とて負けてはいられない。
「…ウラビティの言う通りです、ナイトアイ…俺は、行きます」
「でも、ヒスイ君…」
「大丈夫だよウラビティ…ここで無理しないで、いつ無理すんの」
灯水は自ら冷水を頭上に浮かべ、頭からかぶった。刺すような冷たさに身震いするが、とりあえず思考は冴えた。
そして、勢いよく蒸気を噴き出して地上の穴へと飛び上がった。
すでに治アは地上に出たようで、後を追うような形で、住宅街の上空に躍り出た。
怪物となった治アに対峙する緑谷を見つけ、道路のそこへ降り立つ。エリととともにいるが、纏っているエネルギーの色がいつもと少し違う。
「緑谷君!」
「灯水君っ!」
「あれ…怪我がない」
怪我は大丈夫か聞こうとしたが、緑谷の怪我は治っていた。いったい何が、と思っていると、意外にも治アから返答があった。怪物の口の中に下半身を埋めてこちらを睥睨する。
「人間を巻き戻す、それがエリだ。使いようによっては人を猿に戻すことすら可能だろう。そのまま抱えていては消滅するぞ」
個性を壊す薬、と認識していたが、少し異なるようだ。個性因子は傷つけられるのではなく、戻っていたのだ。人間が個性因子を持つようになる前の進化段階、つまり前超常時代の人間の細胞へと。
緑谷の傷も、傷を負う前の状態に戻っているのだ。
「触れるものすべてが無に巻き戻される。呪われてるんだよそいつの個性は。俺に渡せ!分解するしか術はない」
「絶対、やだ!」
緑谷は話を聞きながら、どうやらエリがあの混乱の中で掴んだらしいミリオのマントを使って、エリを背中に固定していた。
「そっか、足が折れたとき、痛みよりも早く…折れる前に戻してくれたんだね。とっても優しい個性じゃないか」
足が折れるとは、以前のUSJや体育祭で見た様なボキボキになってしまうことだろうか。個性が体に追いつかず、体を壊してしまっていた少し前の状態だ。
「体感した感じで分かった…体が戻り続けるスピード…」
「緑谷君…?」
緑谷はバチバチとエネルギーを飛躍的に強く纏った。その異様な光と圧力に、灯水は何をするつもりかと緑谷を見やる。
「じゃあ、それ以上のスピードで常に大けがし続けていたら…!エリちゃん、力を貸してくれるかい」
本来なら釣り合わずに体を破壊するエネルギーを解放して、体が壊れるそばからエリによって修復させるつもりなのだ。普段の力ですら完全ではなかったということでもある。
「またそんな無茶を…」
「ごめんね灯水君、フォローしてくれると嬉しい」
「フォローする代わりに無茶しすぎるのはダメだからね、俺もそうする…それに、まずは周辺住民の避難を俺は優先するから、合間に援護する」
「お願い」
短く話し終えると、予想外に戦線が広がったことで避難が済んでいない周辺の住宅街で、灯水は先に避難誘導することにした。もちろん戦うことも重要だが、緑谷はエリの力で本気のパワーを出す。回復も同時にできるのであれば、避難完了までは持ちこたえられるはずだ。