死穢八斎會戦/後編−7


緑谷はこちらへ迫ろうと動き始めた治アに向けてアスファルトを蹴る。同時に、灯水も交差点に面した住宅やマンションに向かった。さすがに邸宅近くの家からは人がいなくなっていたが、ほんの少しだけ離れた家には窓からこちらを見る住民が見える。

その窓の前まで来ると、驚く住民に窓をノックする。女性が窓を開けると、すぐに灯水は避難指示を出す。仮免があるので、もう灯水はその権限があるのだ。


「ここは危険です、すぐに退避を!」

「いったい何が…!?」

「警察の捜索から戦闘になりました。個性を使って敵が暴れてます、早くこの道を駅の方向へ走って!」


女性が頷いて玄関から出ていくのを見送ると、すぐに別の家に向かう。音楽を聴いているのか気づいていない様子なので、思い切り窓を叩いた。
びくりと驚く男性がこちらへ向かって来て窓を開ける。


「な、なんですか」

「ヒーローです、ここは戦闘に巻き込まれる可能性があるので今すぐ、」


逃げて、と言い終わる前に、突然灯水が立っているベランダがひしゃげた。窓にヒビが入り、壁面に亀裂が走る。
軋む家に男性も気づいて恐怖に顔を染めた。

何事かと交差点の方を見ると、治アに向かって周囲の住宅街の一部が集まっていくのが見えた。まさか、町ごと分解しているのか。悲鳴が響き、建物が壊れる音やガラスの割れる音が街に満ちた。
この家も屋根から少しずつ剥がれて治アの方へ向かっている。

完全に異形の怪物と化した姿はおぞましく、男性も悲鳴を上げて飛び出して行った。警察やほかのヒーローによる誘導が始まったのを見て、灯水はすぐに緑谷の援護へ向かう。

緑谷は目にもとまらぬ速さで治アに攻撃し、治アもその巨体で大きく攻撃をしていた。すでに交差点周辺は壊滅状態だ。
灯水は破裂した水道管に目をつける。蒸気での移動でまた足から出血しているのか、やはりくらくらとする。

外部からの力がないと厳しかった。

灯水は交差点付近の道路に立ち、左腕を前に掲げる。その手で操って、水道管から水を物凄い勢いの水流にすると、その水流をまるで大きなロープのようにして治アの大きな体に巻き付けた。まるで、水の蛇がとぐろを巻いて巻き付いているかのようだ。
そこから足元に氷結を放って凍らせると、さすがに治アも煩わしそうにした。足元の氷を砕き、こちらに向けて腕を振り下ろした。

避けようと蒸気を出そうとして、ついに、ぐらりと体が傾いた。


「やっば、」


ふらついた灯水の頭上に影が落ちる。巨大化した腕が、今まさに灯水を叩き潰そうとしていた。


「灯水君ッ!!」


そこへ、緑谷の叫ぶ声。もう治アもボロボロで、相当緑谷が追い詰めているらしい。
緑谷は灯水に迫る腕を掴むと、なんと、そのまま腕を引っ張って持ち上げた。
数十メートルの巨体が、空中に上がったのだ。


「は…マジか……」


思わず呆然と呟く。
それは間違いなく、背負い投げだ。緑谷は、その腕を掴んで交差点に開いた穴の近くに向かって治アを背負い投げしてみせた。

まるでスローモーションのように治アが宙を舞い、その瓦礫に包まれた体は、道路に勢いよく叩きつけられる。
轟音とともに、アスファルトが砕けて一斉に吹き飛び、風圧がここまで押し寄せる。

鮮やかに着地した緑谷と、完全に朦朧とする治ア。

もう終幕もすぐそこにして、ついに、灯水の意識はブラックアウトした。


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