″ヒーロー″−6


翌日は日曜日で、学校は休みだった。休んだ分の補習は相澤がしてくれるそうなので、今日はゆっくりするつもりだ。
朝起きると布団の隣に焦凍がいなかったのが少し寂しさを覚えたが、仕方のないことだ。

寝すぎたために朝食をすっぽかしたが、昼から食べようと間食は我慢する。
そうして緑谷たちと食堂で昼食を取ってから、ゆっくりとした午後を迎えている。八百万の予習会があるらしいが、休んだ灯水が行くと復習からになってしまうので誘われたが断っておいた。
全快の切島や、障子、尾白などは筋トレをしに行き、飯田はランニング、麗日と蛙吹も体を動かしに行った。

灯水はいうと、昼食の際に緑谷に話があると言っていたので、2人で寮を出て森の中の道にやって来た。この先は演習場βがある。
まだ残暑の日差しがきつい中、日陰を通り長ながらちょうど良さそうなベンチを見つけ、そこに座る。緑谷も隣に来た。


「話って?」

「ワン・フォー・オールについて」

「っ!!??」


端的に言うと、緑谷は驚愕に目を見開いた。そんなに驚くならもっと慎重になったほうが良いのではないか。


「変な話ではないから安心して。オールマイトには言ってあるし」

「…どこまで知ってるの」

「さぁ、全体像を教えてもらったわけでもないし、そこまで興味あるわけでもないから、俺が知ってる範囲がどの程度かは分からないな」

「い、いつ、誰から?」

「昨日、君から」

「えっ」


自覚がないらしくポカンとするので、灯水は思わず笑ってしまった。あんな大きい声で話していれば丸聞こえだ。


「…もともとね、緑谷君とオールマイトには何らかの繋がりがあるとは踏んでたよ。だから焦凍は体育祭で君に突っかかったんだ」

「あぁ…そうだね」

「違和感はいくつかあった。USJで緑谷君だけオールマイトを心配していたし、君の個性はオールマイトにとても似ているし、でも体に合っていない。そしたら昨日、緑谷君がミリオ先輩の部屋で、個性を譲渡できたらって話をしてるのを聞いて、合点がいったんだ」

「あぁ…そういうことか、僕から聞いたってのは」

「そうそう。あんな大声で話しちゃダメだったんじゃない?」

「うっ…」


緑谷はギクリとする。個性の譲渡、なんていう言葉は、あそこで決定打だった。


「オールマイトがなぜか折寺にたまたまいてヘドロ事件を解決したのも、今年度から赴任してきたのも、君が言った「後継者」って言葉でピンときた。譲渡したことがなければ譲渡可能とは言えないはずなのを考えれば、オールマイトから緑谷君に一度個性が継承されたって思い至る。君の個性発現のタイミングが遅すぎるのも、オールマイトの昨年度からの行動も、君の雄英に入ってからの言動も、すべてこれで辻褄が合う」

「な、なんて洞察力…」

「緑谷君も似たようなもんじゃん」

「僕はクソナード扱いなのに灯水君は名探偵扱いなんだろうなぁ…」


何か言っているが、もはや現実逃避だろう。迂闊な自分の言葉が、灯水にここまで推理させてしまった。オールマイトが事実と認めたところまで至った。別に灯水しか知りえない情報などこれまでなかったため、少し考えるのが得意な者であれば、あの病室での言葉からここまで推理するのは不可能ではない。


「実際、爆豪君だって君の個性がもらいものだって言葉をヒントにしてたんでしょ?」

「うん…かっちゃんにも灯水君にも、僕の不注意で知られちゃったな…」

「誰にも言わないから安心して」


灯水は反省する緑谷に苦笑する。広まって困るのは緑谷なのだ。気を付けてもらいたい。


「まぁでも、ここで俺が知っちゃったのも何かの縁だし。別に、進んで俺に情報共有する必要はないし、俺はあまり興味もないから、なんか俺が手伝えるって場面になったら使ってよ」

「え…いいの?」


灯水は立ち上がる。本題も終わったので帰るのだ。まだまだ暑い。
ベンチで座ったままこちらを見上げる緑谷には笑って返した。


「うん、だって友達じゃん」

「っ、ありがとう…!」


せっかく知ってしまったのだ、もし灯水にできることがあるならしたいと思う。そう思えるくらいには、緑谷は大事な仲間だった。


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