″ヒーロー″−8


それから数日、ようやく八斎會との戦いに関するすべての区切りがついた。

ナイトアイの葬式に、インターンに参加していた雄英生も全員が参加した。ナイトアイ事務所は相棒2人に引き継がれることになっている。
インターンも雄英との協議の結果、しばらく様子見ということで、活動は行われないことになった。ナイトアイの葬儀が各事務所のヒーローと会える最後の機会ともなったため、各自挨拶をしてから帰寮した。

9月の中旬とは不思議なもので、残暑が急に引いて行って秋がやってくる。その変わり目はあっという間で、制服も長袖とブレザーに変わる。
まだ寒暖差が激しく、少し動けば汗ばむような気温であるため、灯水は普段はブレザーを脱いでベージュのカーディガンで過ごしている。

そんなある日、灯水は突然焦凍に土曜に家へ帰ることを告げられた。


「え、なぜ?」

「親父が話があるんだと」


寮の部屋でおもむろに言ってきた焦凍に、炎司の話というものが検討もつかず疑問が膨らむ。


「補習でなんかあった?」

「まぁ、そうだな。今回は灯水に話があるから、俺は付き添いだ」

「付き添いて…まぁいいけど。でも話なんて…」

「悪い話とかではねぇよ。そばも用意するらしい」

「行くしかないかぁ」


疑問をすべてどこかにやってしまった灯水に焦凍は苦笑した。


***


そうして土曜、学校の授業が早く終わったところで、校門に炎司の事務所の車が迎えに来た。一応、警戒しているのである。敵連合が動いた直後ということで、相澤から学外に出るならそうしろと言われた。
エンデヴァー事務所の相棒の運転で、雄英から少し離れた凝山の街へ。ここへ戻るのも、盆の入寮前日以来だ。まだ1か月ほどであるため、懐かしくは感じない。でも久しい感じはするので、不思議な感覚だ。

あすの朝、焦凍は直接補習の会場に、灯水は寮にそれぞれ送られる。相棒使いが荒いので申し訳ないが、どうやら炎司に双子の送迎を任されるのはかなり信頼の厚い者だけらしく、むしろ光栄だと言っていた。

そうして久方ぶりに帰宅した。
送ってくれた相棒に礼を言ってから自宅の門をくぐり、玄関を開ける。すぐに、冬美が廊下から走って来た。


「お帰りなさい、焦凍、灯水。全然帰ってこないんだから」

「ただいま」

「ただいま姉さん、わりと忙しくてさ」


ちょっとぷりぷりとする冬美に謝り、2人は木の匂いが満ちる家に上がる。やはり、寮の新品の木が放つものよりも、使い込まれた木材の匂いの方が落ち着く気がした。
焦凍も同じようで、少しほっとしたような表情をしている。

そこへ、冬美より格段に重い足音が近づいてきた。すぐに廊下の角から炎司が姿を現す。炎は出していない。炎司は2人を見下ろして立ち止まった。


「帰ったか、焦凍、灯水」

「…あぁ」

「うん……」


話とは何だろう、と思ったが、炎司はそれだけ言うと、一瞬変な沈黙が流れてから、書斎に戻っていった。焦凍は呆れたようにため息をつく。


「…どうしたんだろ」

「……さぁな」

「あ、てか俺初めて帰ってきてリアクション示された」


今までずっと、炎司は灯水が帰宅してもリアクションはしなかった。焦凍に対しても「帰ったか」くらいしか言わないし、冬美にも「あぁ」としか返さないが、灯水に関しては完全にスルーだったのだ。

久しぶりだからだろうか。焦凍は気にせずすたすたと自室に向かうため、灯水はとりあえずついていった。一応2人とも制服で出て来たので、着替える必要もある。


「今日はついでに冬服持って帰ろうか。姉さんに送ってもらうのもあれだし」

「あぁ、そうだな」


すでに秋冬の第一陣は郵送してもらったが、コートなど重いものはまだだ。冬服は嵩張るので、ここで持って帰れば負担を減らせるだろう。
そんな他愛ない話をしながら廊下を歩くのは、ほんの一昔前の、2人がまだ囚われていた頃を思い出させるようでもあった。随分、あれから変わったように思う。


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