USJの試練−7
入口付近から階段を下った先、中央の噴水広場に突如として紫がかった黒い靄が現れた。そこから出てくるのは、普通異形問わず武装した男たち。稀に女もいるが、総じて目つきが悪い。最後に出てきたのは、体のあちこちに手首から先の手を貼り付けた若い細身の男だった。
相澤はすぐにゴーグルをして叫ぶ。
「13号!生徒たちを守れ!」
A組の生徒たちはまだ気づいていないが、灯水は手首男から向けられる殺気に鳥肌が立った。炎司に「殺気とはこういうものだ」と散々叩き込まれたため、すぐに気づけた。これは、想定外の出来事だ。焦凍も同じく気づいており、手すりまで行って階下をにらむ。
「なんだありゃ?また入試んときみてーなもう始まってますパターン?」
「動くな!あれは、敵だ!!!」
相澤の本気の大声は、状況の異様さを知覚させるには十分だった。切島たちがヒーローの学校に乗り込んでくるという暴挙に騒いでいる一方で、灯水は焦凍の隣で同じく見下ろした。
昼休みに聞いた警報音が鳴らないことを考えるに、センサーが機能していない。
「昼と同じ手口か…?」
「手口は分からねぇけど、同一犯の可能性はあるな。マスコミだけであのセキュリティを突破できたわけがねぇ」
焦凍も同じことを思っていたようで、次々と侵入してくる大群を静かに見下ろしていた。
「先生!侵入者用センサーは!?」
「もちろんありますが…」
八百万もそれを疑問に感じて尋ねるが、思った通り、センサーがあれど起動していなかった。
「現れたのはここだけか学校全体か…何にせよセンサーが反応しねぇなら、向こうにそういうことできる個性のヤツがいるってことだな」
「しかもこんな辺鄙なところにある施設に俺たちだけが入っている時間を狙った来るなんて、こちらの情報を仕入れて実行するだけの脳があるってこと…無謀だとは、向こうは思ってないんだろうね」
雄英にはこのUSJだけでなく、いくつもの体育館やスタジアム、演習場など本校舎以外の施設が多くある。しかもひとつの都市なみの広大な敷地だ。
こっそり侵入したいなら、敷地内に腐るほどある森林に入って来た方が良かったはず。それなのに、わざわざA組が授業を行うこの施設をピンポイントで狙ってきた。それはつまり、目的はこのクラスの授業にあったということだ。非常に計画的な犯行だし、情報の収集や昼のマスコミ騒ぎなど用意は周到だったようである。
せめてこれが、学校全体で起きていないことを祈るばかりである。
「13号避難開始!学校に電話試せ!センサーの対策も頭にある敵だ、電波系の個性持ったやつが妨害してる可能性もある。上鳴お前も個性で連絡試せ!」
「ッス!」
上鳴が個性を使っている横で、灯水はくまなく敷地全体を見ていた。よく見ると、目に見える範囲の区画すべてに敵がいるのが分かった。岩場の「山岳ゾーン」、池とウォータースライダーのある「水難ゾーン」、土砂に建物が埋もれている「土砂ゾーン」、建物が崩壊している「倒壊ゾーン」だ。町が燃えている「火災ゾーン」とドームに覆われている「暴風・大雨ゾーン」は見えないが、この様子だと敵が潜伏していることだろう。
「焦凍、」
「あぁ。USJ全体に敵が展開してんな」
その狙いを考えあぐねていると、緑谷の声が響いてきた。
「先生は!?1人で戦うんですか!?」
相澤、ヒーロー名イレイザーヘッドは、視界に収めている相手の個性を消す能力だ。相手の個性を消してから捕縛するというのが通常のスタイルだという。
「一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号、任せたぞ!!」
相澤はそう言うと、単身階段下の敵たちの群れに突入していった。一瞬で前方の敵をなぎ倒し、すぐに周りの敵たちも捕縛しては地面に叩きつけていく。