″出来損ない″−3


焦凍を助けられるようになる。そう決めてからの行動は速かった。
もともと冷と焦凍を3人でやるパズルやリバーシなどの頭脳ゲームが得意だった灯水は、家族に放っておかれる時間が長かったこともあってかなり熟考できるタイプの子供だった。
「お姉ちゃんね、あなた棋士か何かになるのかと思ってたのよ」なんて冬美に言われたこともあるほどだ。子供らしくはないが、それくらいの子供もまた一定数いるのも確かだろう。

そうして、まずは個性の強化に努めることにした。氷の個性も磨けば強いものになるはず、という思いだったが、同時に、自分にももうひとつ受け継いでいないだろうかという思いもあった。双子である焦凍だけ半冷半燃などあるのだろうか、という疑問から生じた希望でもあった。


「…、燃えろ、燃えろ燃えろ燃えろ…!!」


右手を見つめて念じる。もはや声に出ていればそれはただの呪文に近い。必死で希望を捨てずに右手に「燃えろ」と唱え続けた。もし自分にも燃焼の力があれば。

そうして右手に熱が集まる感覚がして、これは、と思った瞬間だった。


「熱い!!!!」


突然、右手から熱湯が噴き出して腕に思い切りかかったのである。慌てて台所に走って冷水を浴び、遅れて左手で氷を出せば良かったと気付く。
じくじくと痛む腕は赤くなっていて、夕飯を作りに来た冬美に驚かれた。


「やだ、どうしたの!?」

「いきなり右手からお湯が出た…」

「…お湯?」


道場にいる冷に代わって夕食を作ろうとしていた冬美は、久しぶりに見た弟の灯水の不思議な言葉に首を傾げる。
いきなりと言うからには個性しか考えられないが、熱湯に関わる個性は轟家にはない。


「もしかして、」


そして冬美が気付いたのが、両親の個性が混ざっている可能性だった。さすがにそこまで思い至らなかった灯水と違い、大人びた姉の冬美には分かったのである。

半冷半燃の個性は、焦凍だけが持って生まれたものではなかった。灯水のそれは、いわば焦凍の劣化版。
炎を出すには至らないが、体内で生成する氷の温度を調節することで水にして出したり、それをお湯にしたりできるということである。


「すごいじゃない灯水!」

「でも、焦凍より弱い…」


焦凍の個性の下位互換であることを「弱い」としか表現できない子供に、冬美は首を横に振る。


「灯水は氷だけじゃなくて、水も操れるのよ?ちょっと見てて」


冬美はヤカンに水を入れるとコンロにかける。しばらく火傷の手当をして病院に行くほどではないと判断できたところで、ヤカンが勢いよく白い蒸気を噴き出すようになる。


「この前あげた理科の図鑑読んだ?」

「読んだ」

「今、ヤカンの中には何が入ってる?」

「お湯」

「そう」


先ほどまでは蛇口から出てきた冷水だったものは、コンロの熱によって沸騰し熱湯になっている。それは、感覚的に幼い灯水でも理解できた。


「灯水の力はね、あのコンロになれるのよ」

「火は出せないよ?」

「そうね。でも、冷たい水をお湯にできた。氷も水もお湯も、全部もとはお水でしょう?私や焦凍は氷しか出せないけど、灯水は全部出せるの」

「それで敵やっつけられるの?」

「ええ!だって灯水、すごく熱かったでしょう?あんなの顔に浴びたらどう?」

「やだ…」

「そう。敵も灯水が怖くて逃げちゃう!」


腕に浴びた熱湯ですら、冷静な考えをなくすほどに耐えられなかった。もしも顔に浴びたら。考えるだに恐ろしい。
灯水は自分の力が顔にかからなくて良かったと安堵する一方、もしかしたら、本当に焦凍を助けられるかもしれないと期待に胸を膨らませた。

同じとき、ヤカンの内部で膨張した水蒸気が注ぎ口や蓋の隙間から漏れ出していた。さすがの冬美も、水を熱したときの最終形態までは頭に浮かばなかったらしい。ヤカンの口から溢れる蒸気もまた、もとは水である。
そして、蒸気はかつて産業革命として人類の最も重要な転換点の1つを生み出したほどの力を持っているのだ。


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