燃えろ体育祭/前編−5


ついに、雄英体育祭の日がやって来た。
町中がどことなくざわついているのは、このビッグイベントを何とかして見るためだろう。会社によっては休みになったり、半休を駆使したりと社会人たちの工夫も凝らされていた。
街頭テレビ、電機屋のテレビコーナーなどには人だかりができ、さらにパブリックビューイングまであちこちで開催されている。
母校である凝山中学校でも、体育館でパブリックビューイングをして轟兄弟の応援をしてくれるらしい。それもあってか、地元では道行く人々から「がんばれよ!凝山の星!!」と声をかけられた。雄英の制服を着ている限り、人々は皆視線を送るし、中には応援の言葉をかけてくれる人もいるのである。

電車に乗ると、動きがないこともあって周囲の乗客に声をかけられやすかった。


「そこの紅白頭の雄英ボーイズ!いつも気になってたけど、今日は出るの?」


電車で話しかけてきたのは若いサラリーマンだった。その声に周囲の注目が一気に集まる。答えたくなさそうな焦凍の雰囲気を察知した灯水は、すぐに余所行きの笑顔を張り付けて応対した。


「はい!出ます!」

「1年生?ひょっとしてヒーロー科?」

「はい、ヒーロー科1年です!2人とも頑張るんで、応援してくれたらすごく嬉しいです」


二コリと笑えば女性たちの「イケメン…」という声が落ちる。そう言われるのを分かってやった。例によって自覚しているわけではないが、そう認識されていると知ってはいる。そして、灯水は使えるものは使う主義だ。


「名前聞いてもいい?私職場でめっちゃ応援する!」


今度は近くのOLがはしゃぎながら聞いてきた。個人情報だが、どうせあと少しすれば全国生放送で顔と名前が一致させられるのだ、変わらない。


「俺は轟灯水、こっちが一応双子の弟の轟焦凍です!A組なんで、分かりやすいと思います」

「えっ、あのA組の!?」

「大変だっただろうに…」

「でも、実戦経験があるなんて頼もしいよな!絶対上まで行けるぜ!」

「がんばれよ!!」


口々に応援の言葉をかけられて、笑顔で会釈して返す。焦凍も一応会釈はしていた。本当に、注目されている。これが雄英体育祭。俄然やる気が出てくるようだった。



***



学校に着いて着替えると、そのまま控室に集まる。各クラスに宛がわれた控室には、もうクラスの大多数が集まっていた。ロッカーに着替えと貴重品を入れて閉じる。
クラスのメンバーはどことなくテンションが高く、本番前の心地よい緊張感が場に満ちている。灯水も、緊張というよりはいよいよか、という期待感の方が大きい。

一方の焦凍は、目つきが悪く纏う雰囲気が鋭利になっていた。まるで、あの推薦入試のときを彷彿とさせるかのような。
気が立っているのだ。ここで緑谷を倒し、右側の力だけで1位となり、炎司を否定するための前哨戦とするつもりだ。

ちなみに、推薦入試と言えばイナサが応援のメッセージをくれていた。イナサは結局、雄英への入学を辞退し西の雄英と呼ばれる士傑高校に進学した。あれからちょくちょく連絡を取り合っている。今日も、朝に「頑張れよ!ついでに弟の方ボコっといてくれ」と連絡があった。

思い出して苦笑しそうになっていると、その焦凍がおもむろに緑谷のところへ近づいた。これはまさか、と思ったが、とりあえず様子を見守ることにする。


「緑谷、」

「轟君?なに…」

「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」

「へ!?う、うん…」


思った通り、突然の焦凍の言葉は緑谷への敵意、というか闘志に満ちていた。珍しい事態にクラスの視線が集まる。


「お前、オールマイトに目ぇかけられてるよな。別に、そこ詮索するつもりはねぇが…お前には勝つぞ」


明らかな宣戦布告。それも、クラストップの焦凍から緑谷へのものにクラスがざわついた。


「急に喧嘩腰でどうした!?直前にやめろって…」

「仲良しごっこじゃねぇんだ、なんだっていいだろ」


制止する切島の手を振り払い、緑谷から視線を逸らさない焦凍。室内には沈黙が満ちて、それを弱弱しく破って緑谷が答える。


「轟君が何を思って僕に勝つって言ってんのか、は分からないけど…そりゃ君の方が上だよ、実力なんて大半の人に適わないと思う」

「緑谷もそういうネガティブなこと言わねぇ方が…」


切島は必死に2人の険悪な空気をどうにかしようとするが、しかし緑谷は、一転して強い口調で続けた。


「でも!皆、他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ…!僕だって、後れを取るわけにはいかないんだ。僕も本気で、獲りに行く!!!」

「……おお」


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