燃えろ体育祭/前編−6


沈黙が降りる控室は、焦凍たち当人らこそ決意に満ちて良いことだが、周りは微妙な空気だ。いったいなんなんだ、という疑問やら気まずいやらで居心地が悪い。焦凍は言いたいことを言えて満足したのか、わざわざ灯水の隣に戻って来た。
仕方ない、と灯水は口を開く。


「…まぁ、緑谷君だろうと何だろうと、昨日の爆豪君の言葉通り勝ち進めばA組であっても戦うことになる。互いに個性を把握して、さらにUSJでも戦ったんだから、俺らは皆互いに強敵だよね」


言いながら切島を見れば、灯水の意図を正確に察してくれた。この気まずい空気を払拭するのだ。


「灯水の言う通りだな!何より自分に勝とうぜ!!」

「おっ、切島いいこと言うじゃーん!」

「負けないよー!!」


同じく空気を読んだ上鳴、芦戸も続いてクラスの空気は軽く柔らかなものになる。それでも、緊張感は失わない。


「飯田君、そろそろ入場?」

「む、そうだな!よし、皆行こう!!」


灯水はそこで飯田にそれとなく入場の準備をしようという意味を込めて声をかければ、飯田もすぐに頷いた。体操服姿のA組の面々が続々と廊下に出ていく。焦凍と最後に出ようと待っていると、すれ違い様に切島と低い位置で拳を合わせる。空気を変えることに成功したことを意味してだ。切島は本当にいいヤツだと思う。

最後の方に焦凍と並んで廊下に出ると、もううっすらと歓声が聞こえてきていた。選手入場が近い。
隣の焦凍に何か言おうかどうしようか迷ったが、結局やめた。推薦のときと一緒だ。今は静かに待って居よう。

そう決めて歩いていくと、しだいに廊下は屋外へと向かう。1年生の会場となっている巨大なスタジアムの中心に、これから躍り出るのだ。
廊下の先にまぶしい陽光が見える。室内との対比で明るさが目についた。その向こうからは観衆の声。

いよいよ始まりだ。

大きく息を吸って足を進める。そして、全身が光に包まれると同時に、圧倒されるような巨大な観客席が全方位を囲み、とんでもない歓声が落ちてきていた。


『雄英体育祭!!ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る大バトル!!どうせてめーらあれだろ、こいつらだろ!?敵の襲撃を受けたにも関わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!1年、A組だろおおおお!!??』


プレゼントマイクの煽りによるアナウンスが響き、より一層歓声が大きくなる。その圧力に潰されそうになったが、周囲を歩くA組を見て落ち着く。観客などどうでもいい。
ここからの行動原理は至極シンプルだ。

すなわち、勝つこと。


全員が整列を終えると、すべての科の生徒が出そろい、前のひな壇にツカツカと女性がやってくる。
あれは18禁ヒーロー、ミッドナイトだ。体から眠り香を出すことで相手の意識を落とすことができる。その個性のためとはいえ、本当に放送できるかギリギリのコスチュームである。


「選手宣誓!!選手代表、爆豪勝己!!」


ミッドナイトはなぜか手に持った鞭で床をはたくと、選手宣誓に選ばれていた爆豪を呼んだ。一般入試1位通過だったかららしい。徐々に歓声も引いていき、ざわめきだけが満ちる。


「せんせー」


マイクの前に立った爆豪は、ポケットに手を突っ込んでだるそうに言った。


「俺が1位になる」

「絶対やると思った!!」


そのとんでもない選手宣誓がマイク越しに会場に響いた瞬間、切島のツッコミが炸裂し、同時に選手たちから大ブーイングが上がる。A組ですら、飯田が「品位が」と叫んでいる。
それをものともせず、爆豪は親指で首を掻き切るしぐさをした。


「せめて跳ねのいい踏み台になってくれ」


ブーイングはさらに高まり、特にB組からは怒声が飛んだが爆豪はまるっと無視して列に戻った。これくらいのことで動じないミッドナイトは、こんな選手宣誓でも良かったらしく、何事もなかったかのように進行に戻った。


「さーて、それじゃあ早速第一種目行きましょう!」


その背後に投影されたホログラムは、カジノのルーレットのように文字が回り始める。本番の競技は3種目、いずれも事前に公表はされず、本番にいきなり告知されるのだ。
固唾を飲んで生徒たちの視線が集まる。


「いわゆる予選よ!毎年ここで多くの者が涙を飲む(ティアドリンク)!!さて運命の第一種目!!今年は…これ!!!」


ミッドナイトの声とともにルーレットは止まる。そこに映し出されていたのは、「障害物競走」という文字だった。一瞬、この数で?と頭によぎる。

ミッドナイトの説明では、計11クラスの総当たりで、灯水の疑念通り全員が走るらしい。だが、コースの全長は4キロと長く、コースを守れば何をしても構わないそうだ。
さすが雄英、障害物競走といっても大規模すぎて、11クラス分が走ってもまったく問題なさそうだった。完全に、淘汰のための競技である。

ずらずらと大量の生徒たちがゲートの前に並ぶ。ゲートの上部には3つのランプがあり、それが順に消えていく。推薦入試を思い出すが、あのときよりも遥かに難易度が高いだろう。
いつの間にか焦凍は近くにいなくなっていて、何を考えているか察する。ゲートの先の細い廊下こそ最初の振るいであり、そこで先手をかますつもりだ。


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