燃えろ体育祭/前編−11
「なに───」
「ちょっと黙ってて。俺、君の個性分かったわ。その上で協力をしたい」
心操が口を開くが、何か言う前にその口を手で塞いだ。身長差があるためにちょっとつらい姿勢だが、有無を言わさず話を続けた。
「呼びかけに答えた相手を操る個性。そうでしょ?君ら3人の合計点は290点。それに俺を足すと485点。とりあえず逃げ回って点を維持すりゃ適当な1騎を奪って勝ち確だし、奪われても俺の個性を使えば難なく上位だ。俺はちょっとの間反動で個性使えない、心操には自由に動ける攻撃力と機動力がない。利害の一致じゃない?」
心操はしばらく考えるが、やがてこくりと頷いた。おそらくどうでもいいのだろう。どうせ個性は尾白とB組の生徒を使った時点で最終種目に勝ち目はない。対策をされるからだ。確実に最終種目に行って、ヒーロー科編入への糸口を掴めればいいはずだ。
「ありがと。俺に個性使っても、俺しばらく個性使えないし足動かしにくいから足手まといだよ」
ようやく手を外すと、心操は小バカにしたように笑った。
「なんだよ、使えねぇじゃん」
「うるさいな、どうせ最後の追い上げ狙いでしょ?」
「まあな。にしても、いいのか?宣戦布告した普通科のヤツなんかと組んで」
まだガヤガヤと交渉が続いているグラウンドを横目に、心操はいまだニヒルな笑みを浮かべて聞いてくる。A組の中でも上位の灯水が協力を申し出たことがそれほど意外だったらしい。
「利害の一致ってのが一番。次に、君がヒーローになってくれたらいいなって思ったから。心操君の個性、ヒーロー向きじゃん」
これは本心である。人を操るなど、強力も強力、一度術中にはまれば終わりだ。どんな強個性でも太刀打ちできない。
「…は?本気で言ってんのかよ。俺の個性がヒーロー向き?敵向きの間違いだろ」
心操は若干苛立ったように言った。感情を見えにくくしていたヤツがそれを露にしたのだ、地雷というか、センシティブな部分だったようだ。
「誰かに言われたの?」
「誰かも何も、皆そう言うよ。昔からずっとな。二言目には『自分に個性使うな』だ。人のことなんだと思ってやがるなんて、もう思わなくなった」
「じゃあヒーロー向きの個性って何?」
確かに心操の個性は、まず浮かぶのは悪用だろう。人に命令を聞かせられるということは、どんな犯罪でも可能ということだ。
「それこそあんたみたいのがヒーロー向きだろ。ヒーロー科はいいよな、恵まれてて」
「自慢じゃないけど、俺の方が君よりもたくさん人を殺せるし、完全犯罪もできるよ」
「…はぁ?」
だが、灯水には心操より悪質な敵になれる自信があった。灯水の力をもってすれば、密室殺人など余裕だ。
「人の体内に大量に蒸気を吹き込んでやれば肺や気管支が破壊されるし、水だから跡も残らない。本気を出せばこのスタジアムの人間を5分もあれば大量殺戮できる」
「そりゃ、あんたみたいな強個性なら当たり前だろ」
「そういうこと。あのね、ヒーロー向きだとか敵向きだとか。くだらないと思わない?力なんて使いようによってどうとでもなる。人の生存に不可欠な水も、一度に摂取し過ぎると毒性が出て死ぬ。ヒーローか敵かを決めるのは個性じゃない」
灯水は心操の目をまっすぐに見つめた。個性の優劣で夢を諦めてきた中学の「友人」たちとは、心操は違う。まだ諦めていない。だから、そんな風に思ってほしくなかった。
「ヒーローと敵を分けるのは、個性じゃなくて心だ。罪を犯すのは、心なんだよ。ヒーローを目指そうとしている限り、誰だってヒーロー向きじゃんか」
「…っ、」
心操は目を見開く。初めて言われたのかもしれない。こんな、あまりに初歩的なことすら。心操は別に避けられていたとかではないのだろうが、きっと心無いことを言われてこっそり傷ついていたのだろう。
「…まっ、そういう精神論は別にして。普通に君の個性なら、俺みたいな普通の戦闘系とは違って人質解放や交渉、犯罪の事前探知に大きく貢献できる。スパイとかもいいかもね。かっこいいじゃん、やっぱオールマイトみたいな正統派もいいけど、そういうレンジャーモノで言えば黒担当みたいなのも男の子心に憧れってあるよね」
そういうオンリーワンのスペシャリストのような立場というのはやはり憧れがある。正統派と違ういい味を出す格好良さなのだ。そういうのに一番近い心操が羨ましくすらある。
「…ガキかよ」
「突然のdis」
「…あんたが、同じ中学とかなら良かったのに」
「何変なこと言ってんの。ほら、そろそろ始まるよ」
ぼそりと呟いた心操の言葉は意図的に流す。感傷的なことを言うのはあとにしろと思ってのことだ。心操は苦笑すると、配られた鉢巻を手に持つ。
「あんたやるか?」
「俺は騎馬でいいよ。目立ちたくないし。先頭はB組の人、後ろに俺と尾白君ね」
「あんたが仕切んのかよ」
もう一度苦笑すると、心操は鉢巻をぎゅっと見た目にも強く自身に巻き付けた。