燃えろ体育祭/後編−5
レクリエーションが終わり、いよいよ最終種目、1対1のガチンコ勝負の時間がやって来た。
スタジアムの中央には某天下一武道会のようにステージが作2られ、それを造ったヒーロー・セメントスが副審として側に控える。セメントスはコンクリートを操ることができるため、市街戦で活躍している。
待機している生徒たちは観客席のさらに上、最上階の席でクラスごとに区切られたスペースで観戦することになる。灯水は何となく一番後ろの席に座って見ているが、他の生徒たちは前の方に固まっていた。
そして始まった第1回戦第1戦。緑谷vs心操の戦いは、いきなり緑谷が心操の個性に引っかかってしまいどうなるかと危ぶまれたが、緑谷が個性を暴発させて意識を覚まし、心操を背負い投げした。
心操はここで敗退となるが、本戦に出たことで多くのヒーローの目に留まったらしい。ざわざわとする会場に、ようやく心操もきちんと前を向くことができたようだった。
続いて第2戦、瀬呂vs焦凍。入って来たときから焦凍の様子がおかしく、妙に苛立っていた。他の生徒は気づいていない。だがあれは、冷静さを欠くレベルでの苛立ちだ。
ちょっとこれはまずいかもしれない、と思った途端、焦凍はなんと最大級の氷結を放った。
会場の半分を覆い隠すほどの巨大な氷結。その氷は観客席を越してクラス席に迫り、さらにスタジアムの外にまであふれていた。
「な、んだこれ…!」
「さむぅ!」
「死ぬかと思ったぜ…」
上鳴や葉隠、切島が騒いでいる。すぐ目の前に迫った氷の塊に、全員身を引いていた。
「おい灯水!あいつどうしたんだよ!?」
切島はおかしいと思ったのだろう、振り向いて灯水に尋ねてくる。つられてクラスの目線が一斉にこちらを向いた。
「…めっちゃイラついてる。ただそれだけ」
「はあ!?なんつー迷惑な野郎だ!」
焦凍は自ら氷を溶かしはじめ、セメントスも客席に氷の塊が落ちないよう客席にまで届く氷を支えてフィールドに戻していく。これが解けて乾くまでいったん休止だ。
次は上鳴の出番なので上鳴が退出すると、入れ替わりで緑谷が、少し遅れて瀬呂が戻って来た。緑谷は飯田たちのところで労われており、瀬呂は切島の隣でどんまいと言われていた。
灯水も焦凍を探しに行こうかとも思ったが、大方炎司が焦凍に何か言ったのだろうことは想像ついたため結局席にとどまった。焦凍に今会ったところで、緑谷を倒すことしか頭にないだろうし、かける言葉も思いつかない。
第3戦上鳴vsB組の塩崎の戦いは瞬殺。塩崎の蔓の個性によって上鳴の雷撃が防がれて、最大出力によって思考がままならなくなった上鳴を塩崎が戦闘不能にして終わった。
続く第4戦は、飯田vsサポート科の発目。これは発目がひたすら自身のアイテムを飯田を使ってアピールし、すべて紹介し終わったところで発目が自ら場外に出て飯田の勝ちとなった。
その勝利の瞬間は見えていないものの、10分に渡る営業の間に灯水は控室に向かったために結果は目に見えていた。
そして第5戦。灯水vs芦戸。
控室から廊下を進みフィールドに出ると、やはり大観衆に囲まれる圧迫感がのしかかる。だが、冷静さは失わなかった。すでに作戦は立案済みだ。
芦戸と向き合うと、プレゼントマイクの実況が入る。
『じゃあちゃっちゃと行くぜ!START!!』
「いっくよー灯水!!」
芦戸はさっそく広いフィールドをこちらに向かって走って来た。素の身体能力が非常に優れた芦戸に間合いに入られれば勝ち目が薄くなる。しかも芦戸は足元を弱酸によって滑りよくすることでさらに加速している。だがそれは騎馬戦や障害物競走でも見た方法だ。そう来ると分かっていた。
まっすぐに走る芦戸の正面に向かって、まず一発氷結を放つ。焦凍と同じ単なる氷の塊だが、芦戸は簡単に横に避けた。
「甘いよ!」
「っ、そだね」
灯水はひとことだけ返すと、芦戸が着地しようとした地面に正確に氷を出現させた。先ほど出した氷を伝い、灯水の足元から直接出したものではないものだ。
それによって気づくのが遅れた芦戸は、その上に着地する。その氷は表面がキレイに整えられており、そして、斜面になっていた。
「おわぁっ!?」
自身の酸によって滑った芦戸は、滑らかな氷の表面を一気に滑り台のように滑落していく。斜面を蹴ろうにも、滑らか過ぎて滑ってしまい踏ん張れないのだ。
そしてそのまま、芦戸は場外へと滑り出てしまった。
「芦戸さん場外!轟君兄2回戦進出!」
『おおーっと兄貴の方も瞬殺ーーー!!!俺もあの滑り台やりてーーー!!』
「うわーん!なにこれ!悔しいけど楽しかった!!」
場外に出てしまった芦戸は悔し気にしながらも、それなりの高さを滑り落ちたのを純粋に楽しかったとのたまった。切り替えの早い芦戸は立ち上がると、灯水の方に向き直る。
「今度またやって!20メートルくらいのやつね!」
「うん、任せて」
自分が出した氷を溶かしながら答える。これはまだ初戦。この次が問題だ。