燃えろ体育祭/後編−7


緑谷の右手の指はすべて折れたのか内出血しており、浅黒く変色している。その痛みに耐えながら、緑谷は突っ込んでくる焦凍からすんでで避けた。
緑谷がいた場所に焦凍の手から氷結が撃ち込まれたが、焦凍はすぐに緑谷に向けて次の氷結を放つ。それはついに緑谷の足を捉えたかのように見えたが、直後、緑谷はとんでもない力の衝撃波を放ってすべてを砕いた。氷が粉砕された小さな粒子状の破片と砂埃が混じり、白い煙が衝撃とともに客席の方に吹き付けた。

それをもろに食らった焦凍は、氷の壁を幾重にも重ねて自身の背後に用意し、吹き飛ばされるのを防いだ。煙が晴れると、砕けた氷が舞う中、緑谷が左手の肘から先を変色させて立っていた。あの広範囲が負傷した状態で正気を保つなど、「正気」じゃない。

ここにきてようやく焦凍の右半身に霜が降り震えがみられたが、緑谷は動くたびに周囲に血を散らす負傷ぶり。
すると焦凍は緑谷に何か言ったあと、客席に目を向けた。それをたどると、やはりエンデヴァー、こと炎司がいた。先ほどの苛立ちも、炎司が控室付近にいたからだろう。
大柄な炎司の顔が険しいのはここからでも分かった。緑谷相手に氷だけで追い詰めているからだ。

だが、緑谷はさらに「SMASH!!!」と叫んで衝撃を放った。氷結を出していなかったためそれを直接食らった焦凍は、先ほどのように氷の壁で支えるもどんどん後ろに飛ばされ、なんとか場外寸前でとどまった。

右手が震えている焦凍に対して、緑谷はボロボロになりながらも鋭い目を向けた。その声が、静まり返った会場の中で聞こえてくる。


「皆本気でやってる…!勝って、目標に近づくために…一番になるために!半分の力で勝つ?僕はまだ、君に傷ひとつつけられちゃいないぞ!!!」


骨折に内出血、恐らく筋繊維断裂など重症の右手を、緑谷はあえて無理やり握った。そして叫ぶ。


「全力でかかって来い!!!!」


その言葉を聞いて、焦凍は顔を歪めた。本気の苛立ちだ。ときに穿った見方をする焦凍のことだ、金でも炎司につかまされたと思っていそうだ。だが、むしろ金でここまでできる方がすごい。
あの狂うような痛みだろう負傷でなお、緑谷は焦凍に全力を求めているのだから。


「…なんで…そこまで…」


思わず呟いた灯水の声は、誰にも聞き取れないまま緑谷たちの走り出す音に消えた。
焦凍は氷結を放とうと右足を上げる。その一瞬で緑谷は体を低くして焦凍の間合いに入った。

決まる、そう思った瞬間に、緑谷の重い拳が焦凍の腹にしっかりと決まった。


『もろだーーー!!生々しいの入った!!!』


プレゼントマイクの実況に、会場がどよめいた。ここで攻勢に出て焦凍に一発入れた緑谷への驚きの声だ。
地面に投げ出された焦凍は、何とか立ち上がって追撃を仕掛ける。しかしその氷の勢いは弱く、緑谷は個性を使わずとも避けた。
それでも近づいて近接攻撃に出る焦凍へ、緑谷はなんと親指を頬の内側に指しこみ、それをはじき出すことで衝撃を放った。まさかの攻撃に焦凍は再び衝撃を食らって飛ばされる。

焦凍の口が動く。先ほど灯水が漏らした呟きと同じ。なんで、そこまで。


「期待に応えたいんだ…!」


緑谷は腹から絞り出すような声で言いながら走り出す。


「笑って応えられるような、格好いいヒーローに…!なりたいんだ!!!」


緑谷の頭突きが焦凍に入る。避けきれなかった焦凍は後方へ飛ばされた。


「だから全力で!やってんだ皆!!君の境遇も君の決心も、僕なんかに計り知れるもんじゃない…でも…全力も出さないで一番になって完全否定なんて、ふざけるなって今は思ってる!!」

「うるせえ…!」


今まで、灯水が決して言わなかった言葉だった。緑谷は、それをはっきりと口にする。焦凍は様々なものに抵抗するように、右側を凍結させて個性を使おうとする。


「だから、僕が勝つ!君を、超えて!!」


さらに緑谷の拳が入った。焦凍はついに吹き飛ばされ、地面に倒れこんだ。思うように動かない体で、なんとか立とうと上体を起こす。必死の形相の2人に気圧された会場はいつしか無言になっていた。歓声もない。


「親父を…!」


震える焦凍の声、それに被せるように、緑谷の最も強い怒声が響いた。






「君の!!力じゃないか!!!!」


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